バンコク沈没:洪水と温暖化とタイ不動産事情

前回の大洪水から10年。忘れた頃にまたくるのか?

忘れた頃にやってきた大洪水

日本では小栗旬主演のドラマ、「日本沈没」が放映されているところである。筆者もこの手のSFドラマは好きな方なので、バンコクの自宅で毎週楽しみに見ているのだが、実はバンコクは今、本当に沈没しつつある。

11月8日の洪水で冠水した道路

11月8日、バンコクを流れるチャオプラヤー川(筆者を含め、昔は学校でメナム川と習ったので、年配者にはメナム川といった方がわかりやすいかも)がオーバーフローし、バンコクの川沿いのエリアや海に近く低地のサムットプラガーン県、そして運河周辺などで深刻な洪水が発生した。このことは、一部日本のメディアでも報道されたようなので、見た人もいると思う。

その結果、それまでバンコクは大丈夫、心配ないといってきたバンコク都知事も、今回の洪水は予想できなかったと謝罪したが、自然災害なので、こればかりは仕方がない。しかし、洪水はまだ終わりではない。今月下旬にもまた満潮と川の水量の増加が重なり、水位上昇で再度洪水になるリスクがあるというのだ。

世界で沈没するのはほとんどがアジアの都市

そんな中、現地のニューストークショーが、地球温暖化で次第に海面が上昇しつつある中、一方でバンコクは沈みつつあるという話題を取り上げていた。それによれば、今後海に消えゆく危険のある世界の都市、ワースト100を挙げると、何とそのすべてがアジアの都市なのだそうだ。

中でもワースト1位がインドネシアのジャカルタであり、過去20年間の大きな地盤沈下により、既に街の半分を東に1,000キロ離れた他の場所にリロケートしたそうである。つまり、インドネシアでは地盤沈下のために遷都が起こりつつあるわけだが、今、同じ問題がバンコクにも迫りつつある。

昔、バンコクも運河が至る所にあり、水上交通が発達していたことから、東洋のベニスとも呼ばれていたのであるが、ベニスと同様、ここも今、海面下に沈没しつつあるわけだ。もっとも、人口800万人のタイの首都が沈むのと、ロマンチックな消えゆく街として観光客を吸引し続けるベニスとではかなり事情が違うのであるが…。

COP26で演説するタイのプラユット首相

先日、英国グラスゴーで開かれたCOP26でも、タイのプラユット首相はその演説の中で、CO2削減はタイにとっても重大な課題であり、全力を尽くすと力説していたが、海面上昇で将来バンコクが海に飲み込まれてしまうかもしれない状況では、確かに対岸の火事どころではない。しかし、タイだけでなく海面下に沈むかもしれないアジア諸国は、今こそ一致団結してCO2垂れ流しの中国に物申すべきなのである。

過去20年間で20センチ沈んだバンコク

ところで、バンコク全体というわけではないが、エリアによっては海抜1~1.5メートルしかない地点もバンコクには多くあるということだ。そして、今回のようにチャオプラヤー川の水位が2メートル以上も上昇してしまうと、こういうところでは洪水により溜まった水がなかなか引かなくなる。雨水の排水管から川の水が逆流してくるからだ。

チャオプラヤー川加工の水郷地帯であるサムットプラガーン県

さらに、バンコクの南、河口のサムットプラガーン県などは水郷地帯であり、この写真のようにもともと農地でも水がはられているのだが、海抜が低いのですぐに水浸しになってしまう。

そして、バンコクは毎年1~2センチずつ地盤沈下していて、過去20年間で20センチ沈んだそうで、年月を経るにつれて洪水の被害が出る危険性が増々高まってきている。その理由は大量の高層建築物やスカイトレインなどの交通網といった重量のあるインフラストラクチャーの建設により、その重さで地盤沈下が加速してしまい、もうこの沈下は止めようがないということである。

しかも悪いことに、もう一方では地球温暖化により海面が上昇してくるわけで、あと数十年でバンコクでも海面以下のところが出てくるかもしれない。そうなると、ジャカルタのように、やがてタイも遷都して首都機能を安全なところに移すしかなくなる。

沈没するバンコクで不動産投資?

ちなみに、筆者はバンコクで個人投資家として自分で不動案投資を行うだけでなく、投資コンサルタントとして他の日本人の投資相談に乗ったり、これまで「バンコク不動産投資」という題の著書を3冊出版してきた。

しかし、やがていつかバンコクは水没するということを考えると、不動産投資など怖くてできなくなってしまう。もっとも、早くてもまだ数十年先のことなので、あまり深刻に考えなくてもよいことはわかっているのだが、それにしても、少なくともチャオプラヤー川沿いの低地や運河の近くに建つコンドミニアム購入はやめた方がいいと思う。

実際、筆者は2011年の大洪水を経験しているが、その時に川の近くとか、運河周辺のコンドミニアムはかなり価格が下落した。また、販売中の新築物件の場合、さっぱり売れなくなっただけでなく、販売済のものも次々とキャンセルが出ていたのを見て、バンコクでは洪水リスクのある物件は絶対買うべきでないと思ったのである。

しかし、災害は忘れた頃にやってくるという通り、筆者もそれを忘れかけていたところに今回の洪水騒ぎである。現在の市場動向から判断して、少なくともあと数年間はバンコクの不動産市場は低迷するので、今は買いのタイミングではないとは思うものの、将来回復が始まったとしても、少なくとも水の近くにある不動産は買うまいと再認識した次第である。