悪いのは「メモを取らない新人」ではなく「上司」

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

ビジネスの現場では、「新人がメモを取らない」と中堅社員や上司の嘆きをビジネス雑誌やネット記事で見かけることがある。

Yuri_Arcurs/iStock

このテーマについては、常に「メモを取らないのは新人が悪い」という論調で展開されている。確かにメモを取るべきシーンはあるだろう。だが、逆にメモを取らせること自体がビジネスオペレーションの敗北になっていると感じるケースもある。

挑戦的なテーマの本稿だが、決して考えなしに逆張りスタンスを取っているわけではない。個人の体験的にも「新人の頃はとにかくメモを取りなさい」はおかしいと感じることは少なくなかった。

メモを取る行為自体は重要

最初にお断りしておくが、筆者はメモという行為を否定していない。それどころか、筆者自身が強烈なメモ魔である。思いついた原稿ネタや、有益だなと感じた情報はGoogle KeepやGoogle Document、Gmailの下書きなどテーマによってとにかくメモを取りまくる。カテゴリやテーマごとにメモを取ったら、今度は週末にそのメモを見返すことで、新たな動画や記事のネタになってくれたりする。

会社員として働いていた時期もとにかくメモを取っていた。メモをせずにいると、「前にもう説明したでしょ!何度も同じことを言わせないで」と上司に叱られた経験もある。

メモの重要性はよく理解しているし、実際に上司から叱られる経験もしている。その上で「メモを取らない新人」が常に悪いとは思えない論拠を展開したい。

メモではなく、マニュアルを作っておく

右も左も分からない新人は、後から作業工程などがわからなくならないよう、自分の身を守るためにもメモは重要というのは理解している。だが、その上で「メモを取らせるような状況を作り出している上司が悪いのでは?」と思うシーンもある。

たとえば、繰り返しする前提の作業などは、管理者が事前にマニュアルを作成するべきだ。筆者の場合は会計職の社員だったので、朝出社したら朝礼の前に売上や粗利の速報をAccessを使って作成していた。基本的には1ヶ月30日間、毎日同じ作業をするのだが、時折特殊な処理が入ることがあり、その時はメモを見ながら手を動かしていた。だが、新人の自分はなんのために、その特殊処理をするのか?という理由やエラーが出たときの対処法まではわからない。

ある時、上司が有給休暇の日にたまたまその特殊処理をするタイミングにあたってしまい、朝礼が始まってもエラーが解消できなかった。朝礼では「事前に対処しておくように!」とかなりキツく叱られてしまったが、内心では「このようなエラーの発生や、対処法は一切教わっていないのに…」と納得できない感情が残った。

こうした作業は管理者のレベルで「目的・工程・想定エラーと対処法」などを記したマニュアルを作成することが有効だ。問題が発生するたびにマニュアルをアップデートしておけば、オペレーションレベルは高まるだろう。いきなり入社した新人でもベテラン社員と同じ結果を出力できる。業務効率向上になる。

研修は動画を活用

また、新しいソフトの使い方の研修なども、企業によってはソフトを触らせ各々でメモを取らせるところもある。だが、これでは非効率だ。参加者が全員それぞれで一生懸命メモを取ることで、研修内容も頭に入りづらい。メモの取り方が熟練していない社員は、後でメモを見返しても内容がわからないこともあるだろう。

筆者は過去に自社で、新しいソフトウェアの導入を決め、その使い方を教える立場になったことがある。以前は社員を同じ部屋に集め、みんなで操作をしてもらった。その間、業務も止まってしまうし、PC操作の熟練度によって、ついていける人、いけない人にわかれた。このやり方は極めて非効率だ、と教える側に立って感じた。

現在は自分が操作方法を説明しながら、新しいソフトウェアの操作をする様子を画面キャプチャ録画して、YouTubeで非公開動画にアップ、URLを配布するやり方に変えた。これなら各人が手が空いたタイミングに視聴できるし、操作途中でわからなくなれば動画を見直せばいい。事前にマニュアルを作って配布すればさらに効率的になるだろう。

このやり方は結果的にとてもスムーズな導入となり、研修後に質問が来たり、操作がわからなくなったという声は一切なくなった。動画を2倍速で視聴する社員もいた。

すべてではないにしろ、そもそも新人にメモを取らせる時点で敗北といっていいシーンもあるはずだ。

それでもメモが必須な場面はある

もちろん、マニュアルや動画研修を準備できない場面は依然として存在するのは理解している。その時は当然ながら、新人はメモを取るべきだ。

たとえば、筆者は月一回、経理部全員で社長に会社の業績を報告する「社長報告会」というものに参加していた。その際、社長から「資料がわかりにくいので次回からここを変えて」「この数値も入れて」などいくつかフィードバックを受けた。次回の報告会でその部分が改善されていなければならず、間違っても社長に「議事録かマニュアルを作って」など言えない。そういった場合は、社長の要望をこちらがメモに取り、資料を改善する必要があるだろう。

また、同じように取引先のクライアントとのやり取りの中でも、お客さんである相手に議事録やマニュアルを作成させるわけにはいかないから、相手の要望などはメモを取る必要がある。

以上のことから、十把一絡げに「新人はとにかくメモを取るべきだ」というのは論理的にも、経営効率的にも誤りだと感じる。メモを取るべき局面、マニュアルを作成しておくべき局面に切り分ける判断は、新人ではなくベテラン社員や上司の仕事ではないだろうか。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。