憲法記念日に、また非核三原則の話題が出ています。今までタブーになっていたこの話題に、今年は維新がふれたので、基本的なことをおさらいしておきます。今年2月27日の記事の修正版です。
ウクライナ情勢をめぐって「こういうことにならないように日本も核武装すべきだ」という話が出てきました。安倍元首相は核シェアリングという言葉を使って話題になっています。
Q1. 日本は核武装できるんですか?
憲法では戦争を放棄していますが、政府は1978年に真田法制局長官の見解としてこう表明しています。
自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは憲法第九条第二項によっても禁止されておらず、したがって、右の限度の範囲内にとどまるものである限り、核兵器であると通常兵器であるとを問わず、これを保有することは同項の禁ずるところではない。
つまり「自衛のための必要最小限度」であれば、核兵器も保有できるという立場です。
Q2. 実際に核兵器を保有できるんでしょうか?
日本も結んだ核拡散防止条約(NPT)では、当時の核保有国(アメリカ・ソ連・イギリス・フランス・中国)以外の国が核兵器を保有することを禁じています。したがって日本政府が核武装するには、NPTを脱退するしかありません。これは日米安保条約も脱退しないといけないので、現実にはできません。また非核三原則もあります。
Q3. 非核三原則って何ですか?
1971年に行われた国会決議では、こう決めています。
政府は、核兵器を持たず、作らず、持ち込まさずの非核三原則を遵守するとともに、沖縄返還時に適切なる手段をもって、核が沖縄に存在しないこと、ならびに返還後も核を持ち込ませないことを明らかにする措置をとるべきである。
ここでは核を「持たず」だけではなく「作らず」と「持ち込ませず」を含めた3原則を宣言しています。これは法律ではなく、閣議決定もしていませんが、佐藤栄作首相は「非核三原則で平和に貢献した」という理由で、ノーベル平和賞を受賞しました。
Q4. 非核三原則はなぜ法律にしないんでしょうか?
それは「持ち込ませず」という原則が、実際には守られていなかったからです。1960年に日米安保条約を改正したとき、日本国内に核を配備するときは事前協議するという密約が口頭で行われ、それを前提に条約は改正されました。
しかしその後も横須賀などには第7艦隊の核兵器が持ち込まれ、沖縄の米軍基地には戦術核兵器が配備されていました。
Q5. ではなぜ「持ち込ませず」という原則を決議したのですか?
それは「核抜き本土並み」という沖縄返還協定に合わせたのですが、実際には佐藤栄作首相とニクソン大統領は、1969年に有事の核持ち込みの密約をしていました。密約といっても、悪いことをしたわけではありません。核武装は安保条約で禁止していないので、別に秘密にする必要はなかったのです。
Q6. では「持ち込ませず」という約束は守ってないんですか?
今は第7艦隊は核兵器を搭載していないので、核は持ち込んでいません。核ミサイル(SLBM)は原子力潜水艦に配備されて日本には寄港しないので、「持ち込ませず」という方針には意味がありません。
ただアメリカは、有事には核兵器の共有を容認する方針です。NATO(北大西洋条約機構)諸国では、アメリカの保有する核兵器をたとえばドイツに配備し、ドイツと共同でコントロールする体制がとられています。これが核シェアリングです。
Q7. 核シェアリングって具体的にはどうするんですか?
NATOでは、アメリカの核兵器をドイツに配備した場合、その指揮権はアメリカがもっているので、核のボタンを押すのはアメリカ大統領です。でも実際に核ミサイルを発射するのはドイツで、両国が合意しないと使えない二重の鍵というシステムをとっています。
ヨーロッパに配備されているのは、地上戦に使う小型ミサイルのような戦術核兵器ですが、日本では意味がありません。共有するとすれば、戦略爆撃機に核ミサイルを搭載し、在日米軍基地に配備することですが、これも無意味です。
Q8. 政府は核シェアリングを考えてるんでしょうか?
岸田首相は国会で「敵基地攻撃能力の選択肢に核兵器は含まれるか」という質問に「非核三原則はわが国の国是と認識している」と答えましたが、日本が陸上に戦術核を配備することは考えられません。
「持たず、作らず」については、もともとNPTで禁止されているので、あらためて宣言する必要もありません。だから非核三原則そのものが必要ないのです。
Q9. 核シェアリングはできるんでしょうか?
技術的にはまったく問題ありません。核シェアリングはヨーロッパでもやっているので、NPTにも違反しません。非核三原則には、法的拘束力はありません。障害は国民感情というか、野党とマスコミが騒ぐだけです。
ウクライナ戦争で、通常兵器では抑止力にならないこともわかりました。抑止力を強めるには日本がコントロールできる核兵器が必要だと思いますが、今から核兵器をつくる必要はありません。アメリカの核兵器を借りればいいのです。
Q10. 核武装は必要でしょうか?
すでに日本は、アメリカの拡大抑止(核の傘)で核武装しています。これは戦略核ですから、日本に持ち込む必要がありません。非核三原則にはもう意味がないのです。
その目的は核攻撃に対して報復する抑止力なので、ミサイル誘導技術の発達した今では、グアムにあっても日本にあってもほとんど変わりません。核攻撃に対してはアメリカの戦略核で反撃するという国家意志を明確にしたほうが効果的でしょう。