ウクライナ問題、西側諸国経済への影響は?

今回の戦争は想定を超えたことがいくつも起きていますが、ロシアへの水準を超えた経済制裁もその一つであろうと思います。私は当初、この争いが比較的短期間で終結すると期待していたし、仮に経済制裁があっても国家の根幹を揺るがすほどのものではないと考えていました。

urbancow/iStock

しかし、日々飛び出してくるあらゆる経済制裁報道は「お前がそうするなら俺もそうする」的な部分と直接的な人の生死にかかわらない経済制裁はやりやすいという判断があるからなのでしょう。本日はマクドナルドがロシア850店舗の運営中止を発表、スタバ、コカ・コーラ、ペプシも追随します。

民間企業のロシア撤退は企業ガバナンス上「お宅、まだ、ロシアとビジネスをしているのか?」と指をさされる一方、マックは閉鎖による失業の混乱に配慮をするため給与を払うという判断をしたようです。他方、シェル石油は他社が撤退表明する中、ロシア産原油を安く購入してビジネスをしようとしたところ、世論から徹底的に叩かれ、同社は「その利益を寄付する」と声明を出さざるを得なくなりました。

今般、アメリカはロシア産の資源の一部である原油、液化天然ガス、石炭などの禁輸を発表しました。これは何を意味するでしょうか?バイデン大統領の頭の中のシナリオを伺ってみたいところです。なぜならば以前、このブログで申し上げたように西側諸国の対ロシア経済制裁は天に向かって唾を吐くようなものだからです。

私は原油の指数相場、原油精製会社、欧州のガス開発会社等などを買い持ちしているため、当然、市況分析には敏感です。が、このところの相場付きは危険を超えて現世の出来事とは思えない領域に入ってきています。これが続けば西側諸国は1970年代の石油ショック以来の大不況が起きてしまう可能性を見ています。

例えば私は昨日、EV対応設備80台分の発注をしましたが、それは業者の手持ち機器がわずかになったため、残り機器を確保するために急いだものです。それでも電気設備会社が工事に使うアルミが手に入らないので入荷に16-18週の余裕を見るのが条件です。また、来月にも着工する高齢者施設の建築事業は人手不足と材料不足の両方で苦しみそうです。日本で進めている住宅工事も一部部材の納入が圧倒的に遅れており今月末完成予定ですが私は無理だろうとみています。

こうなるとまず起きるのが価格の高騰。これにより一般消費者に手が届かない提示価格が当たり前になってくるでしょう。現在、世界の航空会社の株価が急落し、コロナ禍につけた最低水準に再び近づいています。理由は燃料費高騰で乗客も航空会社もどうにもならないという二重苦に陥りつつあるからです。あるいは小麦の価格が14年ぶりの高騰となっています。大供給地であるロシア、ウクライナからの供給が細る、ないし止まることが見込まれているからです。そうするとパン、パスタ、うどんなど我々が日常食している物価が急騰するのは確実です。私は価格が2倍になることも覚悟だと思っています。

日本の物価については2%を一時的に上回るかもしれないという予想がちらほら出てきています。多分、そんなものでは収まらず「一時的」で終わる目途もないとみています。そもそもコロナ明けで世界各国が正常化になり、今まで我慢していた消費がいまだに高いレベルで押し寄せ需要の高止まりの中、なぜ、物価上昇が一時的現象で終わるのか、その説明がつかないのです。

原油に関してはロシア産があろうがなかろうが全く足りていません。イランとの合意が出来たとしてもすぐに原油の大増産などできませんし、サウジはできない約束はしないからOPECプラスの増産計画も当初のプラン通り、ということになります。となれば原油価格は今の水準はかわいいものぐらいになりかねません。あらゆる資源価格は論理的には全く説明できない領域にあるため、急落のリスクもありますが、その判断が出来ないところに難しさがあるとも言えます。

日本の経済全般の予想としては今後、倒産件数が一気に増えるとみています。コロナで2年間耐え、政府も様々な支援金で経済の下支えをしてきました。が、そもそも中小企業ないし自営業者が主流で薄利多売の傾向が強く、経営側の財務的基盤は大きく弱体化しています。それでも何十年と商売ができたのは物価が急上昇するようなショックが長年、起きていなかったからです。

コロナの時は「需要の消滅」であって物価は上がりませんでした。よって、じっと耐えることで嵐が過ぎるのを待つ形でした。これから起きるのは台風が来ない地域に巨大台風が来るような事態を想定する必要があります。供給量が下がり価格が跳ね上がる質の悪い恐慌型の経済後退が起きる道に着実に歩を進めている、それが北米で様々な現場を見続けている者の感覚です。

株価の下落も心配です。北米一般に株価上昇による見せかけ資産リッチ(=実際には売却しておらず、時価評価上のリッチ)が多かったはずでした。ナスダックを中心とした昨今の下落は一気に没落者を生むかもしれません。バイデン氏は今日、自国民にも痛みを伴う経済制裁と述べています。本当にそれでよかったのでしょうか?これにはワクチンも特効薬もないのです。

私は経済制裁をそう簡単に同調してポンポンやるべきではないと思います。それがロケット砲以上の破壊力があることに気がつくべきです。暗雲は迫っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年3月9日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。