2021年4月に立ち上げられたオープンレター「女性差別的な文化を脱するために」とは、歴史学者の呉座勇一氏から「さえぼう」こと北村紗衣氏に対する誹謗中傷があった件について(同年7月に呉座氏から北村氏に謝罪・和解済み)、呉座氏に対して抗議をすると同時に、「同様の問題が繰り返されぬよう行動することを、広く研究・教育・言論・メディアにかかわる人びとに呼びかけるもの」という目的を掲げた学者らの声明のことです。
「オープンレター」の本質と内容の問題点
その文章から客観的に言えることは、「呉座氏による女性差別・男性中心主義・歴史修正主義」と記述しているが発言の特定が為されておらず検証可能性が確保されていない代物であり、それによって「なんとなく呉座はこう評価されるべき言動をしたのだ」という印象を先行させたものだということです。
在日朝鮮人やトランスジェンダーなどのマイノリティに対する差別的言動や歴史修正主義との類似性、といった全く無関係な政治的主張を混ぜ込ませていること等も相まって、その本質は前掲の目的を達するという所とは別にあるものと言えます。
さらに、「オープンレター」では「呉座氏の中傷発言を、いち個人の行き過ぎた発言であり氏と中傷された女性研究者とのあいだで解決すべき個人的な問題である、と主張することには大きな問題があります」として、呉座氏の発信に対して「中傷や差別的発言を、「お決まりの遊び」として仲間うちで楽しむ文化が存在していたのです。」と指摘した上で、「同じ営みにかかわるすべての人に向け、中傷や差別的言動を生み出す文化から距離を取ることを呼びかけます。」と主張されています。
ここからは、当時既に所属機構から厳重注意処分を受けていた呉座氏に対して追加的な制裁を求める趣旨を含むものと解す余地が大きいです。
要約すれば「個人的な問題にとどまらないのだから厳重注意処分ではなく「距離を取れ」=組織から追放しろ、という主張が含まれると言い得ます。
実際、その後、呉座氏は所属の国際日本文化研究センター(日文研)から定年制の資格の付与と准教授への昇格決定の取り消しが為されました。これは実質的な解雇です。
そして、現実に日文研の処分理由の一つとして「オープンレター」が「WEB上で国内外に公開されるなど、日文研の名前を不本意な形で国内外に知らしめ、日文研の学界における信用を失墜させた」とあるように、「オープンレター」の影響力も相まって呉座氏が実質解雇されたという事実があります。
※なお、懲戒処分=停職1か月は日文研から公表されたが、定年制雇用付与と准教授への昇格決定の取り消しについては隠しており呉座氏が訴訟提起して初めて発覚している ⇒ 2021.10.15お知らせ国際日本文化研究センター研究教育職員に対する懲戒処分等について
※1月22日追記:さらに言えば、呉座氏に対して「呉座氏自身が、専門家として公的には歴史修正主義を批判しつつ、非公開アカウントにおいてはそれに同調するかのような振る舞いをしていたことからも」と評価を加える部分もあるのだから、「解職」の文脈とは別個に名誉毀損や侮辱が成立し得る文章です。
そのような性質の「オープンレター」なので、次項のように運営上の問題も発生しています。
「オープンレター」の運用の杜撰さ
「オープンレター」の中身以前の問題として、その運用の杜撰さも指摘されるべきでしょう。
「オープンレター」のHPには、管理者名や連絡先の記載がありません。
名宛人として日文研を明示していたわけではないが(むしろ複数の所属があり得る者に対してはより「効果的」な手法だろう)、特定人の解雇を求めるものと受け取られかねない文章に他人の氏名と所属を掲載した上での賛同を求めるのであるから、所在は明確にするべきでしょう。
「オープンレター」への賛同署名はGoogleフォームで行われていましたが、メールアドレスなどの連絡先は任意。これでは何かあった際に確認のしようがありません。その上、賛同が締め切られた2021年4月30日以降に閉じられると、どこにも連絡手段が記載されていません。
声明の差出人として、隠岐さや香、小木田順子、金田淳子、北村紗衣、木本早耶、河野真太郎、小林えみ、小宮友根、清水晶子、関戸詳子、津田大介、橋本晶子、松尾亜紀子、三木那由他、宮川真紀、八谷舞、山口智美、らの名前がありますが、代表連絡先などの表示がありません。
そのせいで、2022年1月17日には氏名を冒用されていたことが判明した者が、「誰に連絡して良いのか分からない」と困惑していました。
これは第三者の愉快犯が勝手にフォームに投稿した可能性がありますが、連絡先不明のために冒用の事実が判明してから丸二日経過した現在も、削除対応が為されていません。
「国際信州学院大学社会学部学生」の記載が為された際には約20時間で削除された(賛同者募集の締切前)のに比べると、不可解です。
ちなみに、「オープンレター」にはある時期からは以下の文言が入るようになりました。
そのため、あるネットユーザーが「署名しようと投稿したが弾かれた」と言っているものが見つかります。どうやらコメントが書き込まれた場合や他の人から指摘された際にはチェックをしているようです。
ただ、おそらくはコメントも何も書かず、誰も指摘しなかった者については、名簿をざっと見返すチェックすらしていたのか怪しい。少なくともチェックが杜撰だったと言えます。
※20日8時44分追記:19日23時15分に冒用された人の名前を削除したと差出人の一人であるおきさやか氏がツイート。しかし、現時点でも次段落の状況は変わらず。
なぜなら、今現在も「松本 松本 室蘭工業大学 教授」という記載が残っているからです(実在する人物が名前欄だけスマホの予測変換をミスったかのような記載ですが…)。
しかも、北村紗衣から代理人弁護士を通して「オープンレターについて言及するな」という要求が為される始末。「オープン」とは…。
礪波亜希氏は差出人に名前を連ねていましたが、呉座氏が10月に実質解雇となった後には離脱の申請をし、氏名等の記載が削除されています。しかし、その際に名前を外した理由の説明を外部にしておらず、そのこともまた運用の問題として指摘されるべきでしょう。
※上記礪波氏のブログ記事は現在非公開になっています(編集部)
「この指とまれ」との共通点
オープンレターはこのような文言で締めくくられていました。
しかし、実態はどうでしょうか?
コスプレイヤーに対してきっしょい半乳などとツイートして削除した立教大学社会学部兼任講師の橋迫瑞穂など、賛同署名者らによる中傷が後を絶ちません。
また、オープンレター賛同署名をしていなくともその活動に共感している者によって以下のような事案が。
この件に関し、賛同者に名を連ねていないがTwitterプロフィール上で「オープンレター」に賛同すると記載している大野裕司氏が、呉座氏のブログを引用しながら「金にあかせて訴訟訴訟、破廉恥にもほどがある」などとツイートしていました。
何かと共通点があると思ったところ、「誹謗中傷撲滅」を謳って設立された一般社団法人「この指とめよう」代表理事が過去にとんでもない発言をしていたり、他のメンバーも地域に対する風評被害を生じさせていたりと、冗談では済まないことをしていたケースとの類似性がある事に気付きます。
「この指とまれ」は直接的に他人の生活を脅かしませんでしたが、「オープンレター」は多数の人を巻き込みながら呉座勇一という人物の生活の糧・研究の場を奪うような内容なのですから、さらに質が悪いです。
※編集部より:上記記事は基本的な事実関係が2022年1月19日時点のものになります。
編集部より:この記事は、Nathan氏のnote 2022年1月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はNathan氏のnoteをご覧ください。