イーロン・マスク氏にみる人間の能力

イーロン・マスク、50歳。総資産額30兆円、世界一の富豪、今やだれでも知っているテスラやスペースX社だけではなく数多くの事業を行っています。最近ではスペースX社のサービスであるスターリンクを介して戦火に見舞われるウクライナへインターネットの安定通信供給を行ったことでも知られています。一方で2度の離婚をへながらも子供が7人いるし、本人がアスペルガー症候群だと自認しているともされます。

imaginima/iStock

世界で最も注目される男が次はツィッター社の株式を9.2%取得していることが判明、その翌日にはツィッター社が同社の取締役として招聘、その条件としてマスク氏が取締役任期90日後まで同社の株式を14.9%以上を買収しないこと、という合意までなされたと報じられています。

当地の朝のラジオのトークショーでは「すげーなー」という声もありましたが「こんなにたくさん会社持っていてまだツィッターまでやる気なの?やり過ぎよ!」というコメントがあるなど、様々な意見が並び、人々の見方は洋の東西を問わず、実に幅広いものだと改めて実感しました。

6-7年前までイーロン・マスク氏のことを正当に評価する人は少なかったと思います。私は初期から注目していたのですが、彼がテスラ社の工場に泊まり込みで必死になって工場のライン立ち上げと戦っている時「この男は違う」と確信を持ちました。折に触れて皆様にはご紹介してきたと思います。残念ながら当時、ポジティブな反応を示された方は少なかったと思います。

この男は何が違うのでしょうか?世に出回る情報や彼の言動からの推測ですが、他人に振り回されないし、世間体も関係なし。ある意味、奔放だけれど彼の言動には一定の理があり我が道を進む、ということでしょうか?例えばトランプ前大統領も奔放な発言者でしたが、彼は信念をもって発信する場合と調子に乗ってしまうこともありました。もちろん、マスク氏にもそのきらいはあるのですが、彼の場合は自分に興味ある世界にのみ特化している点でトランプ氏よりぶれが少ないという印象を持っています。

先ほどのラジオのDJが「この男にも俺にも24時間しかないのに…」というコメントがありました。これが今日のポイントでもあります。なぜ、普通の人は一つの仕事をするにも大変なのに彼はいくつもの仕事をこなせるのか、です。

私にはこの答えがわかる気がしています。理由は私も小さいながら8つぐらい事業やプロジェクトを同時に抱えて処理しているからです。

分かりやすい例を提示します。私のこのブログをどう皆さんがお読みになっているか、コメントから察するにムラがあると感じている方は多いと思います。出来の悪い投稿もあるし、文脈が繋がっていないと細かいチェックがかかることもあります。残念ながら私はそんなことはお構いなしなのです。なぜならわたしは新聞や雑誌の原稿を書いているのではなく、無尽蔵に入ってくる情報を頭の中でまとめ、ポイントを書き留めることに専念しているからです。

もしも雑誌記事のように論理性がありよく推敲されていて文章表現も上手なものにするならば私に許容されている1日30分という時間枠では収まらないわけで1時間か1時間半を要すでしょう。しかし、私の価値観にはそのエキストラの30分や1時間を費やす意味はないと考えています。よって読み手に独自に再編集して頂くしかないのです。

言わんとしていることは作業を究極に煎じ詰める、これがないとまずマルチタスクは不可能です。例えば首相はディナーが多い日で3度あります。同席者からすれば一つの席に30分しかないことに「付き合いが悪い」かもしれないし「忙しいのに来て下さった」といろいろでしょう。一方、首相からすれば食事の席というゆったりした空気を利用してうまく相手の懐に入り込み、自分の意図する方向に理解頂くテクニックであり、数時間にもわたって世間話をするためではないのです。

会社経営、事業運営あるいは特定専門分野において長年の経験と目線からポイントは必ず見えてきます。これはどんな方にも必ず備わっている能力です。何が足りないのか、何処を強化したらよいのかなど鋭い視点は数多くあります。ですが、組織にどっぷりつかっていると井の中の蛙に近い状態となり、細かいところが見えすぎて、外側から見た本当の色合いを見落としがちです。

例えばマスク氏がテスラの工場に長期間泊まり込みで立ち上げをしていた時、彼は「友達に会えない」とツィッターをしていました。しかし、彼の頭の中には工場のラインの立ち上げである部分を乗り越えればあとは大丈夫だ、そこまでを自分が先導するという計算があったはずです。一般的な発想ならそのまま工場にずっと張り付いて3年も5年もいて、工場のエキスパートになるケースも多いでしょう。彼の才能はそれを選ばなかったのです。

理由はそれは他にもできる人がいる、自分にはもっと違うことがある、こういう信念が彼にはあるのでしょう。

今回のツィッター社については彼は個人的に大好きであると同時にユーザーとしていくつもの気づきがあるようです。それを取締役という地位を通じて企業バリューの改善に努めるということだと思います。ツィッターを使っている人は星の数ほどいますが、ツィッターに利用されている人がほとんどです。マスク氏の場合は彼がツィッターを使い倒すためにはどうしたらよいのか、という視点でみているのでしょう。

ところで代表的ファンドマネージャーの一人、キャシーウッド氏が「マスク氏はツイッターのパラグ・アグラワルCEOに『強い合図を送っていると思う』と発言。『これは新たな経営陣刷新の下地になるかもしれない』と語った」(ブルームバーグ)とあります。これは直観的に私もそう思います。ツィッターを巡ってはアグラワル氏と創業者のドーシー氏、マスク氏の三極の動きが面白くなると思います。

では最後にマルチタスクをこなす私の考え方です。まず、自分が時間という列車に乗るのです。その列車はノンストップで走り続けます。その間に手持ちの案件を立ち止まらずにこなしていくのです。時間という列車は止まらない、だから案件でひと段落したら次の案件をこなさないと脱落してしまいます。それを1日のみならず、1週間、1カ月と続けるのです。そのうち慣れます。すると自分の時間の使い方に無駄だらけだったことが分かります。もちろん、こういう生き方は向き不向き、好き嫌いがありますので万人受けは絶対にしませんが。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月6日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。