若手ビジネスマンよ、仕事論は上司より武田信玄に学べ

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

日本の若手ビジネスマンは、勤務先の上司から人生論や仕事論を聞かされることが多いだろう。筆者も複数社で勤務した経験があるので、このような経験がある。だが、個人的には人生論、仕事論は上司より歴史上の人物の名言の方が遥かに心に響く事が多かったように思う。

我々は歴史上の偉人と直接対話することはできない。だが、一方通行ではあるが彼らの残した言葉を理解し、学ぶことは可能だ。日本最強の戦国武将の一人として恐れられていた戦国武将、武田信玄は数々の名言を残しており、彼の言葉は、現代の仕事に通用する価値ある教訓が詰まっている。

信玄はマネジメントに長けたリーダーシップに優れた人物だ。今回は筆者の独断と偏見で気に入っているものをいくつか取り上げたい。

NHK大河ドラマ「武田信玄」より

「渋柿は渋柿として使え」

日本の柿には、甘柿と渋柿がある。一般的に渋柿は甘柿に比べて敬遠されがちだが、小細工をして無理に渋柿を甘くしようとするべきではない、という意味の名言だ。

これは現代ビジネスでいうと「適材適所」と言えるだろう。愛想が悪く、笑顔がない人は無理に人とコミュニケーションをたくさん取る営業マンになるのではなく、技術力さえあれば仕事が務まるような職種、たとえばエンジニアやバックオフィス業務につけばいい(厳密にはこうした業務もコミュ力は必要だが、その重要さの度合いは選べばいい)。つまり、無理に短所を長所にするのではなく、短所が弱点にならない舞台で戦えば良いという考え方だ。

実際、信玄は血の気が荒く好戦的な部下と、冷静沈着な戦略家のコンビを組ませることで短所が命取りにならないようにしていたという。

「一生懸命だと知恵が出る、中途半端だと愚痴が出る、いい加減だと言い訳が出る」

人は自分の心が傷つかないようにすることを優先する。そのため、挑戦してうまくいかなかった時は「体調が万全じゃなかったから」「あまり準備ができなかったから」など言い訳をするものだ。言い訳を考える時、人は普段の仕事では見せないような豊かなクリエイティビティを発揮する。だが、これはクリエイティビティをムダに活用する事例といっていい。なぜこのような言い訳がでるのか?それは仕事も勉強も、やらされ感が残りその人は心の底ではまったく真剣ではないからだ。

そして仕事をする上で「上司や会社が悪いから」と愚痴が多い人もいる。愚痴を言う人は自分の気持ちがイマイチ乗っていない対象に向けられる。誰しも心から尊敬する相手や、やりたい仕事に対して愚痴は言わない。だが、自分より下に見るやいなや「あの人のこういうところが嫌いだ」「この仕事はここがつまらない」など、自分自身の評価はさておき、相手の評論を始めがちだ。

だが人は真にコミットメントすると知恵が出る。筆者も日々、様々なビジネスの課題が現れるのだが、その課題を解決するために一生懸命に取り組む。すると仕事を離れた入浴中や、就寝前に突然妙案が生まれる。このような経験は一度や二度ではない。妙案は一生懸命である時に生まれる。仕事には一生懸命取り組むべきだろう。

「戦は40前は勝つように40過ぎたら負けないようにすべきだ」

信玄が生きていた戦国時代、人の寿命は50年ほどだった。そんな時代において、人生のステージに応じて有利な戦い方は違うという提案と筆者は解釈している。

この言葉はビジネスキャリアで考える事ができると思う。会社員のビジネスキャリアは年代ごとに求められるスキルは異なる。20代は与えられた課題を正確にスピーディーにこなす。30代は業務改善をしながら部下に自分のスキルを与えていく。40代はマネージャーとして部下が個別に動くより、マネジメントすることでより高いパフォーマンスを出す。業界や部署で違えど、概ねこのようなイメージである。

言い方を変えれば、30代でプレイングマネージャーが務まるには、20代でスキルを蓄えて独力で戦える力を備えるべきと言える。また、40代でマネージャーとして活躍するには、30代で身につけるべき課題は終えている必要があるわけだ。

「一日ひとつずつの教訓を聞けば、一月で三十か条に、一年で三百六十か条になる」

昨今、習慣化についてのビジネス書や動画がたくさん見られるようになった。だが依然として多くの人は習慣化が実現せず、苦しんでいる。その理由は一夜で大変身をしようとするからだ。そんな時、信玄のこの名言を思い出したい。千里の道も一歩から、である。

運動をまったくしなかった人が朝5時起きでジョギングを始めたり、ロクに勉強をしなかった人が英会話スクールに通って何時間も話す練習をしようとする。だが1ヶ月後に継続する人は10%もいない。理由は変化の幅が大きすぎるからである。大きな変化は緩慢にしか起きない。故に、一日での変化率は低くても良いという受容力が必要だ。

たとえば毎日1%ずつ進歩するとする。多くの人はこの変化率の低さに不満を持つだろう。だが継続することでこの数字は大きく化ける。今日1%前進すれば、明日は101%のパフォーマンスになる。その101%にさらに1%改善すると、101%×101%=102.01%となる。それが365日継続するとどうなるだろうか?101%の365乗で3,780%というパフォーマンスである。つまり、38倍もの成長になるのだ。

筆者は文章能力の向上においてこの感覚がある。初めてビジネス記事を書いた時の質は極めて低く、自分で数年前に書いた記事を読むと噴飯もののクオリティだと感じる。しかし文章の向上を求めて、他の記事から学びを得たり良さそうな文章表現をメモしておき、自分の記事で使おうと努力を重ねた。その結果、毎日1%ずつ成長をしたことで過去の自分と比べた場合において、かなりの筆力向上が実現できたように思う。

信玄の名言は現代ビジネスマンにも通用するものばかりであり、古臭さを感じない点に驚かされるが別の言い方をするとテクノロジーは発達しても、人間心理というソフトウェアはアップデートされることがないということである。職場の上司よりも信玄のような偉人による名言の方が仕事術につながる知見を得られる可能性は高いだろう。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。