安倍晋三氏の射殺事件は、いろいろな憶測を呼んでいる。第一報を聞いて私も次のような動画を収録したが、このときは未確認だった事実が明らかになってきた。
この事件は政治的テロではない
まず奈良県警の発表でも明らかなのは、安倍氏を射殺した山上徹也が「安倍氏の政治的信条が理由ではない」とか「宗教団体の幹部をねらったが失敗したので安倍氏をねらった」などと供述していることだ。
ところがマスコミは「暴力で言論を圧殺することは民主主義への挑戦だ」といった話を繰り返している。それ自体は正しいが、犯人が安倍氏の政治的信条を圧殺するつもりではなかったと言っているのだから、本件とは無関係である。
では何が動機なのか。この点では各社の報道がまちまちだが、「宗教団体への恨み」が原因だという点は一致している。この宗教団体は、週刊誌は名前を出し始めたが、統一教会(世界平和統一家庭連合)である。
これについて犯人は「安倍氏が(統一教会の)教えを全国に広めた」と供述しているようだが、これは犯人の妄想である。
統一教会の創立者、文鮮明は、安倍氏の祖父、岸信介と協力して国際勝共連合をつくった関係で、統一教会は今も自民党の支援団体の一つである。安倍氏が統一教会の関連団体でビデオ演説したことも公知の事実だが、首相をやめた議員が支援団体のイベントであいさつするのは当たり前だ。
動機は家庭内の個人的トラブル
読売新聞によると、犯人は昨年「この動画を見て(統一教会と)つながりがあると思った」と供述しているようだが、安倍氏は統一教会を指導する立場にはなく、公的な場でその宣伝をしたこともない。統一教会は、過去には霊感商法などの事件を起こしたが、その後は分裂し、今は信者6万人程度のマイナーな宗教法人にすぎない。
犯人は「母親が(統一教会の)信者で、多額の寄付をして破産したので、絶対に成敗しないといけないと思っていた」と供述しているようだ。母親は今も統一教会の信者であり、過去には教会に多額の寄付を行い、2002年に破産した。犯人がこれを恨んだとすれば、動機は家庭内の個人的トラブルであり、まったく筋違いの犯行である。
当初は統一教会の幹部をねらったが失敗し、選挙の遊説でねらいやすい安倍氏をねらったようだが、ここに大きな飛躍がある。統一教会を指導する立場にない安倍氏を殺害することは、まったく無意味なテロであり、犯人の精神異常を疑う余地がある。
以上の事実からいえることは、本件は「安倍死ね」といったアジテーションが原因ではないということだ。安倍氏への憎悪をあおった人々に責任がないとはいえないが、犯人が海上自衛隊に勤務した経歴からみても、思想的背景は考えられない。
むしろオウムのような宗教的カルトの犯罪に似ている。今のところ組織的な背景はないようだが、統一教会の分派(銃愛好者の団体)がからんでいるという噂もあり、この点の捜査が必要だろう。