「えらいおじさん」の話が死ぬほどつまらない理由

黒坂岳央です。

「社会的に立場の高いとされるおじさんほど、話がつまらない」という肌感覚がある。これだけ聞けば極めて解像度の低い抽象的な話だと感じられるだろうし、実際に筆者の狭い見識による「感想文」かもしれない。もちろんおじさん全員がそうではないし、あくまで傾向としての話だ。決して役職持ちの中高年男性にケンカを売りたいわけではないし、特定の誰かに言及もしているわけでもない。あくまで社会的な現象を冷静に観測する意図を持ってこの記事は書かれた。

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人生を振り返って考えると「えらい人」とされる立場の校長先生や、大学の教授、企業の部長や役員といった立場のおじさんたちの中で、引力を感じるような話をする人物をこれまで見たことがない。筆者の視点でその理由の言語化に挑戦したい。

立場が上になると話を整える必要がなくなる

一般論として立場が上に行くほど、相手が自分の話を聞いてくれるようになる。これは本人の話術の向上によるものではなく、役職などの後ろ盾がそうさせていると言っていいだろう。

たとえば会社の重役になって部下がいれば表面上、部下は真剣に話を聞いてくれる。多少話が脱線しようが、わかりにくかろうが「話が理解できないのは、しっかりと話を聞いていない部下の問題」として処理されがちだ。実際、こういう場面は会社員時代に数多く見てきた。

ある部長が部下をたくさん集め、わかりにくい指示を出して会議は終了した。その後、残された課長と部下たちが「あの話は何を伝えたかったのか?」と部長の話の断片から、彼の意図を探るためのスモールミーティングが開かれることがよくあった。極めて非効率、非生産的だが、こういうことはよその会社でもあるのではないだろうか。

理想的にはわかりにくい箇所については、「今の話はこういう理解でよろしいですか?」とその場で質問すればよい話だし、コミュニケーションにおける問題の9割型は、話し手の技術に起因するという本質があると認識するべきだろう。受け手の理解度を人為的に高めることはできないが、話し手の技術でわかりやすくすることはできるからだ。しかし、実際問題として部下から上司へこうしたネガティブフィードバックは難しい。

つまり、立場が上になることで聞き手への配慮をしなくなることが、魅力的でない話の原因ではないだろうか。役職という後ろ盾があれば、自分が話しやすい論理展開で好き勝手に話しても、相手側が必死に頭を使って理解してくれるので、段々話術が錆びついてくるのだろう。

話がうまい人は何が違うのか?

えらいおじさんの話術がぬるま湯に使っている一方、「この人は話がうまいな」と感じる人は沸騰する熱湯のような厳しいマーケットに身をおいている。話術に優れる講演家やYouTuberを見ているとそれがよく分かる。

筆者はある20代のビジネスYouTuberから話を聞いたことがあるのだが、彼は冒頭の10数秒で多くの視聴者が離脱することを理解しており、トークの台本を練りに練っているという話を聞かせてくれた。「冒頭の話が少し冗長なので、ここはまるごとカットして5秒間短縮しよう」とか「このたとえ話は伝わりにくい属性が想定されるので、こっちの話に替えよう」など、ワーディングチョイスや、話の展開にとにかくこだわっている。

その結果、多くの視聴者に最後まで見られる動画作りに成功している。彼のYouTubeチャンネルの再生維持率は極めて高い水準にあり、コメント欄には「内容もさることながら、とにかく話がうまい」と絶賛されている。それは徹底的に「話を聞き続けよう」と聞き手が思えるように技術を磨き続けているためだ。

彼らが会社の役職持ちと異なる点は、自分が身をおいている環境である。会社の会議室で部下を相手に話をすることと、様々な属性の不特定多数を相手に「話を聞かせる」ことの難易度はケタ違いに異なる。役職という後ろ盾がなければ、純粋な話術や情報力で勝負するしかなくなる。必然的に彼らの話術は磨かれ、引き込まれるような話ができるわけだ。

気持ちよく自分が好き勝手に話して聞いてくれるのは、家族、長年の友、会社の同僚くらいなものだ。その一方でインターネット空間における視聴者の目はとても厳しい。「この話は聞く価値がない」と感じさせたら、瞬間的に離脱される。この状況が続けば、AIのアルゴリズムがその動画自体に低スコアをつけてしまい、誰にも見られないチャンネルになってしまう。

今回はYouTubeでたとえたが、これは本質的にあらゆるビジネスに通じる。Zoom会議でも、メルマガでも社外のマーケット相手にはつまらないビジネス話は聞いてもらえない。だから「相手が無条件に自分の話を聞いてくれる」という環境に身をおいている人こそ、将来的な話術の劣化に危機感を持つべきと思うのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。