不動産ビジネスは本当に儲かるのか:安定したビジネスといえる条件

国交省は7月1日時点での基準地価を発表しました。昨日、失われた30年の話をしましたが、こちらは31年ぶりにプラスに転じています。あくまでも「地価」ですのでその上に何が建っていようが関係なく、あくまで土地だけの話です。今日は土地と建物の考え方について考えてみたいと思います。

Juergen Sack/iStock

ご承知の通り、建物は使っているうちに古くなるため、法定上の償却が適用され、木造なら22年、RCなら47年で償却が完了します。ただ、個人が木造住宅を購入しても22年で廃棄するわけないし、住宅ローンはそれより長いものも存在するわけで建物の価値の判断は難しいのです。

また間取りや居住者の使い方も建物の価値を左右します。家族構成が変わる中、やけに小部屋がたくさんある間取りは今は受けません。あるいはバンクーバーでインド人の方がお住まいになったところはカレー臭が部屋に染みついていて嫌がる人もいます。

一方の土地は減価償却しません。つまり、何年たっても土地は土地です。今回、基準地価がプラスに転じたという意味は30年前に3000万円で購入した土地が今3000万円に戻ったわけではなく、下落が止まっただけです。基準地価の表示は指数表示のほうがわかりやすいのですが、前年比ですので長期の比較はしにくいのです。

さて、このニュース、あくまでも全国平均ですので自分の不動産が上がったかどうかはそれぞれの場所で見る必要があります。ただ、トレンドとしては2009年のリーマンショック後が住宅、商業地ともボトムでそこからマイナス幅が確実に狭まり、今回ついにプラスになりました。東京都だけに限れば2012年が転換期でこの時に住宅、商業地ともプラスに転じ、それ以降、ずっとプラスを維持しています。

10年連続プラスを維持するというのは累積になるので結構な値上がりを意味します。仮に年1%ずつ上がっても10年で概ね10.5%ほどの上昇になるので知らぬうちに自分の土地の不動産価値が上がっていたという方も多いと思います。

今回の基準地価の特徴は銀座などの繁華街の価値が引き続き下がった一方で郊外の住宅地や商業地が上昇している点です。ポストコロナという観点からは私は街がばらける傾向がより強まったとみています。東京集中が激変するとは思わないですが、働き方改革で大手町や新宿などのオフィス街に毎日行かない人も増え、地元での消費が増えているのでしょう。

一方、コロナ最盛期の頃、オフィスにはもう行かないという極端な発想も生まれ、九十九里や軽井沢など数時間圏の不動産が堅調だという話もありましたがあれはワークしません。なぜならいくらリモートワークが増えたとしても最低でも週に2回ぐらいは会社に行かねばならないケースが普通だからです。北米でもリモートVSリアル出勤の議論は今でも続きますが、多くの経営者が口をそろえるのはリモートの業務効率は悪い点です。また新入社員のリアルの社会経験不足で、苦労しているケースも耳にしています。とすれば不動産需要の都心回帰のバイアスは出てくると思います。

もう一つの注目は外国人の動向です。円安で日本の不動産が大バーゲンの状態なので買う気があればそれなりの投資をしてくるでしょう。ではそれが起きるかといえば私はクールな見方をしています。海外投資家は当然ながら期間収益とキャピタルゲインを考えるのですが、少子化で経済も今一つぱっとしない日本でリターンを生むことは可能なのか、という素朴な疑問があるのでしょう。

私の場合は満室経営の場合で物件次第で5-10%で廻ります。またコロナ期はなかなか苦戦したのですが逆にその時に新規に2物件、開発、稼働させ、現在手持ちはほぼ満室になっています。

この利回りですが、考え方に2つあります。一つは土地代を含めた総投資額に対するリターンで不動産屋は概ねこの考え方です。ただ、先ほども指摘したように土地は減価しないのです。ならば、仮にある程度の利便性があり、買い手が見つけやすい物件の場合はリターンの計算から土地代を除いて計算してよいと思うのです。

例えば4000万円の土地に4000万円でアパートを建て、月に50万円の賃料収入があるとしましょう。その場合、不動産屋の表記は8000万円の投資に対して月50万x12か月=600万円のリターンで7.5%と考えます。ところが土地は減価しない→30年後でも同等の値段で売却できるとすれば本当のリターンは建物に対する投資分のみと捉え、600万÷4000万円=15%のリターンとみるほうがビジネス的には正解だと思うのです。

私は直近では東京都新宿区に投資をしましたので土地代は基準地価でみても一定の値上がりが期待でき、土地が収益を自動的に生むと考えるのです。一方、建物は4000万円の投資を何年で回収できるかと計算すると6.7年で回収できます。そこで残りは全額リターンというキャッシュフローに基づく発想転換をしています。この考え方で行くと6.7年後に一つ物件を増やしても不動産リスクがないキャッシュ パリティ(現金均衡)となります。もちろん、土地代だけは投資残となりますが、貸借対照表上は減価しなければ取得原価ベースで資産で増える一方になる、ということです。

仮に土地代だけ銀行借り入れをする場合、基準地価が2%程度でコンスタントに上がり、現在の低金利が続く限りにおいて理論上、手持ち資金がなくても転がせるということになります。細かい計算は除いていますが、不動産事業とその増やし方とはこういう考え方でやると結構長くずっと増やし続けられるのです。

このアプローチの特徴は土地と建物に別々の収益基準を当てはめる点です。私は常にこの発想なのですが、ここに着目した人はあまりいない気がします。これが機能する限りにおいて不動産投資は物件を選び、テナントがいれば安定したビジネスだとも言えます。

最後にお気づきになった方もいるかと思いますが、この発想はマンション投資では土地と建物を物理的に分離できないため機能しません。そして私がマンション投資には絶対に手を出さない理由もそこにあるのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月21日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。