世論をご誘導する編伊藤俊行編集委員の記事です。株式会社読売新聞グループ本社 山口 寿一代表取締役社長は「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」のメンバーです。その読売新聞でこのような記事がでることは大変問題です。
防衛装備品は納入に時間がかかるのに、国は「後払い」方式だから資金が不足し、経営を圧迫する。「前倒し払い」をしようにも、「防衛費は他の予算より厳格に扱われ、近年まで補正予算は使えなかった」(防衛省幹部)。ここにも「戦後の空気」があった。
これを読めば読者は護衛艦や航空機は納品されてからカネが払われると勘違いするでしょう。確かに調達が決まって、その年度内に支払われる装備や需品などは後払いです。ですが、護衛艦や航空機など複数年度に渡って製造される装備などは、3国5国と呼ばれる国債で適宜支払いが行われます。また初度費用も初年度に支払われます。
得てしてプライムは上場の大企業であり、支払いが決まっている商売で困ることはないでしょう。こういってはなんですが、カネを銀行に預けるより遥かに高率で「儲かる」システムです。これで銀行が渋ることはないでしょう。それに民需のようにあてが外れて売れ残るリスクがあるわけでもない。
「防衛費は他の予算より厳格に扱われ、近年まで補正予算は使えなかった」(防衛省幹部)。
この幹部って誰だよ(笑)みたいな話です。新米の記者じゃあるまいし、相手が話したことをそのまま無批判に引用しちゃまずいでしょう。そしてそれは著者に記事を書くための基本的な知識が欠けていることを意味します。
補正予算は本来、編成時に想定していなかった事態の発生に対処すべき予算です。
補正予算は装備品を買うための「お買い物予算」ではありません。そして補正予算は緊急に手当するために、予算決定、執行までの手続きが本予算に比べて簡素です。つまり十全に財務省や国会が検討するわけではない。補正予算を第二のお買い物予算にするということは、即ち議会制民主主義の軽視です。
>2010年度まで防衛関係費の補正は1000億円を超えず、減額も目立つ。07年に庁から省となって補正額は増え、21年度は7655億円を計上した。当初予算を小さく見せる意図があったにせよ、防衛費を戦争の推進力ではなく抑止力だとする理解が浸透したからこその変化だろう。
「防衛費を戦争の推進力ではなく抑止力だとする理解が浸透したからこその変化だろう」
それって著者の妄想でしょう。それは第二次安倍政権以前は、補正予算を本来の意味でつかっていたからです。
第二次安倍政権以降、補正が増えたのはアメリカの歓心を買うために、旧式のバルホークとか金食い虫のオスプレイとか、地元の了解も取らずにお手つきでアショア用のレーダーを発注したりしてFMSで衛予算が圧迫されたからでしょう。
防衛産業はなお「武器を作る会社」と見られることをリスクと考えがちだ。「自社製品の強みを自覚せず、新技術の開発にも消極的だ」(自衛隊OB)と嘆く声もある。
「死の商人」と言われるのが嫌な会社が嫌々防衛産業続けても良いことはないわけです。腰が定まらないなら撤退すべきです。そして防衛産業を続けていることが自社の強みになることは殆どありません。国営企業気分ですからリスクもない。リスクを負って輸出する気もない。開発に消極的なのは当たり前です。
日米の装備品調達に詳しい防衛産業幹部は「日本は一般入札の安さで発注先を決める。米国は複数の企業に同時発注し、アイデアと性能を競わせる。差は広がるばかりだ」として、日本の入札方式の改善を提唱する。その際も、カギは防衛産業の意識改革になる。
これまた誤解を生む記述です。確かに守屋次官のスキャンダル以後、なんでも競争入札になって行き過ぎの感はあります。ですが価格だけならば次期戦闘機商戦でF-35は落ちていたいでしょう。
そして次期装輪装甲車でも国産と、フィンランドのAMVの試作が調達されて現在評価中です。こういう事案もあります。
安さだけで決めるのは調達担当者に知識がないからでもあります。調達部門の人員は英仏独あたりと比べても一桁少ないわけです。
この記事を読んだ読者は防衛装備は安さだけで決めているだとおもうでしょう。それに安さだけで決めているなら、他国製の何倍も高い国産装備が調達されることはありません。
この記事は全般的に、防衛調達の知識のない記者が、子供のお使いよろしく、防衛省の関係者の都合のいいコメントをつなげた記事になっています。きちんとした知識をお持ちでこのような記事を書かれたのならば更に大きな問題です。
ぼくもそうですが関係者から接触されて情報提供されることは多々あります。それが事実ならばいいのですが、その自分や組織に都合のいい記事を書かせてやろうという「邪」な意図があることもあります。ですからそのような「専門家」に騙されないような見識と、裏を取る作業が必要です。この記事にはそれが感じられません。
編集委員という立場でこのような記事を書かれて、掲載されるのはトップが「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」のメンバーの媒体としては由々しき問題だと思います。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年10月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。