管理職は難しいのだ!:日本が「課長の圧倒的な人材不足」に陥るわけ

「管理職は難しいのだ」と言われてもお前はどういう意味でこのタイトルをつけたのか、とご指摘があると思います。私の言わんとするのは「するのも地獄、させるのも地獄」という意味です。つまり、嫌なのです、こんな仕事みんな。しかし、こんなこと言うと昭和の経営者は血相変えて怒りそうです。

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日経ビジネスオンラインに「昭和世代は驚愕!? 若者の83%が『出世は勘弁』」とあります。しかし、私はこのタイトルを見た時、違和感があったのです。私が新入社員で入った1984年で既に出世欲などなかったのです。つまり、昭和世代が驚愕するのではなく、ブーマー世代が驚愕する、がより正しい表現であり、我々新人類世代は既に出世に興味などトレンドとしてさらさらなかったのです。

理由は簡単です。私たちの世代は既に親が困苦を乗り越えて上昇軌道に乗り始めた生活をしており、「貧乏は嫌だ」という時代から過ぎ去りつつあったからです。

私の新入社員研修の際、技術系事務系併せて180人ほどが会議室に詰め込まれ、人事部が「君たちが将来この会社でどのポジションまで上がりたいか、全員述べよ」と、一人ひとり言わされたのです。私は社長と言ったのですが、確か2-3人しかいませんでした。

私自身が当時、驚愕したのは「課長がいい」といった人が過半数だったのです。それが忖度か、遠慮かそこまでは分析できません。私が逆に聞いたのは「なんで課長なんて言う中途半端なところが良いのか」でした。同期の仲間は「だって、責任取るの面倒じゃない」「おれ、会社のためにそこまで骨をうずめたくない」「ほかにやりたいことあるし」…だったのです。つまり、今の若者のトレンドは40年近く前から既に萌芽の様相があったということです。

最近ではワークライフバランスや子育て父さんは当たり前。リモートワークになって会社に行かずに済むようになり体がダレ切ってしまった方も知っています。「もう会社になんて行けねぇー」と。しかし、現場に行かなくて済む職業の人はごくわずかなんです。全勤労者のせいぜい、全体の1-2割ぐらいでしょうか。私から言わせれば甘えすぎなのですが、一度身についた甘い汁は決して忘れないのです。

これはここカナダでも同じ。ホテルのバレーパーキング会社の若いスタッフさんの一例です。「俺、現場責任者になれって会社から言われたんだよ、時給1ドル増やすからさ、と。冗談じゃないよな。そんな飴玉みたいなもので俺は騙されないよ」。もう1点、最近気になるのが北米の転勤は出世を目指さなくなったような気がするのです。単に今の職場が嫌だから新しい職を探すであって、ポジション的には横横シフト、つまりプロモートされる役職よりも働きやすい厚遇な会社に移るというトレンドです。

なぜ、管理職は不人気かといえばとにかく面倒くさく、自分の仕事より部下の教育や悩み相談、部を取りまとめるための会議、上司とのやり取りなど時間と労力を求められるのです。課長というポジションは昔から最も不人気で上と下の間に挟まる「あんこ」そのものなのです。

ところで私は稲盛さんのアメーバーというのは現代社会では機能しないとずっと以前から思っています。様々な理由があるのですが、この管理職の不人気ぶりで適当ななり手がいないという問題があるためにアメーバーにこだわっていたら日本は圧倒的な人材不足に陥ることになるのです。

少子化もあり、管理職不人気ぶりもあり、業務の複雑さから課長に適任な人は昭和の時期に比べて1/3以下になるとみています。とすればアメーバーの単位も3倍にならざるを得ません。アメーバーの長が係長ならたぶん現在の6-8人体制を20-30人規模の管理体制にする必要があり、課長は100人規模を管理することが必然になるはずです。つまり日本の人事体系と組織体系は変わらざるを得ないところまで来ているということです。誰もそれは指摘していないと思います。

人事部からすれば管理職不適格者も多くなるとみています。管理職の適性とは仕事の実務が十分できることと人間性を問われます。前者は専門能力を磨けばよいわけですが、後者の人間性は酷く難しくなったと思います。それは若い世代がリアルコミュニケーションをとることに不得手であるため、褒める使い方しかできないからです。まさかあの「褒め殺し」も出来まいし、なかなか人を使うテクニックは難しいということです。

もう一つがコンプライアンス。とにかく大手になればなるほどこれが微に入り細に入り決められています。興味深かったのが警視庁公安部が作ったユーチューブのドラマ。全部で20分程度の短いドラマですが、要はスパイがうようよしていて情報漏洩に対する啓蒙を図るものです。管理職はこんなことにも気を配らねばなりません。部下の社外での行動にも目を見張らせる必要があるとすればそんなこと、やってられねえーとなるのがオチなのだろうという気がします。

管理職をやらないと重役になれません。組織が嫌だから自営業をやるという選択肢は間違い。自営業は立派な管理職であり、社長なのです。今はそんなのんきな職業などないとすれば社会全体のあり方を見直すぐらいの覚悟がいるかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年11月18日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。