テレビの健康番組を見る人ほど不健康になる理由

黒坂岳央です。

世の中には様々な宗教があるが、中でも多くの人が無意識的に入信してし、熱心になってしまうものが「健康教」だろう。そしてその布教活動を行っている1つの団体こそが、テレビの健康番組だと思っている。もちろん全部などと暴論は言わない。だが、テレビの健康番組を鵜呑みにして過剰なまでに健康活動に励むほど、かえって不健康になってしまう本質がある。

実際、筆者の親族や知人、親戚の健康教信者で行き過ぎた活動によって健康を害するケースを見てきた。

awayge・Marat Musabirov/iStock

健康番組が視聴者をミスリードするワケ

特定の番組を槍玉に挙げて批判をするつもりはないが、テレビ番組は視聴者を不健康に導きかねない本質がある。ここからはその本質の内容を説明したい。

テレビ番組の至上命題に「視聴率を取る」が挙げられる。当たり前だ。テレビ局は多数の従業員を抱えており、利益を追求しなければいけないためだ。さらにテレビ番組には広告スポンサーがつく。この状況が「正しく視聴者のためになる番組作り」以上に、「より多くの視聴者に一秒でも長く見られ、なおかつスポンサーに嫌われない内容」を目指す作りになっている。

そしてテレビ番組を見る視聴者は栄養の専門家でもなければ、全員が論理的思考に優れていたり、多面的、進化生物学的な観点で見ることはない。画面に釘付けで集中して見ているわけでもなく、多くの人はながら視聴である。そうなると、必然的に番組の内容は難しすぎず、とにかく結論がシンプルで分かりやすく、さらに目新しさを感じられる構成になる。

「健康のためには、まんべんなく野菜や果物などを食べ、量は食べすぎず、適度に運動をしてストレスを減らしましょう」などとはいえず、「バナナはこんなにも知られざるスゴイ効果があった!!」みたいな内容でとにかくバナナを褒めちぎる内容になりがちである。

これはテレビ番組が悪いわけではないのだが、こうした番組を見て「そうか!バナナは完全食品のようなものだったのだ!」と思い込んで、その日以降毎日せっせとバナナを食べ続けてしまう視聴者は一定数現れる。

人気テレビ番組でバナナや納豆の効果が取り上げられる度、スーパーから商品品薄になるニュースが取り上げらられることが過去にあるなど、もはや無視できないレベルでテレビには影響力がある。そして健康教にはまる人ほど、「今週はアボカド!来週はモロヘイヤ!」みたく節操なくおすすめされるものを鵜呑みにし、次々に特定食品ばかりを過剰摂取してしまいがちだ。

過剰摂取が不健康を作る

しかし、この過剰摂取が不健康を作っている。

筆者の亡くなった祖母は生前、一時的に骨密度が悪かった。しかし、あるテレビ番組を見て旺盛にカルシウムを摂取するようになってしまい、やりすぎた結果、尿路結石で病院に運ばれてしまった。親族の男性は「酒は百薬の長だ」という番組を鵜呑みにして、毎日せっせと酒を飲み続け、気がつけば量が増え、肝障害と高血圧症になった。「牛乳は飲むサプリ」のように考えて、過剰に飲みすぎた主婦は毎日体調不良や肌荒れに悩まされ、健康診断でも引っかかるようになってしまった。

歴史的に見て、人間の体は飢餓に強く作られている。カロリー不足が続けば、自動的に省エネモードに移行することで、飢餓に耐えられるという素晴らしい機能性を有している。しかし戦後、飽食になっていきなり現代人は食べ過ぎる生活にシフトした。この大きな変化に遺伝子も対応しきれておらず、現代人は栄養不足ではなく栄養の過剰摂取が原因の病気に苦しめられるというおかしな状態になっている。これは人体が不足には強くても、過剰摂取には極めて脆弱であることを意味する。

だから本来は「不健康な時は新たにこれを食べましょう」という食べる提案ではなく、「不健康な時は食べすぎをやめましょう」という食べない提案こそ、理想ではないだろうか?さらに特定の食べ物に集中して取るのは良くない。最悪なのがサプリメントのように、通常の食生活では接種が不可能なほどの濃度を短期間で摂取してしまうケースである。サプリメントで不健康になった人を見つけることは簡単である。

だが、テレビ番組はスポンサーにサプリメント会社がついていれば、それについて否定的なことはまずいえない。結果、テレビの健康番組を熱心に見る人は、過剰摂取の恐ろしさに気づくことが難しい構造から抜け出せない。不健康を感じる度にますます解消するために、過剰摂取の負のスパイラルに陥ってしまう。テレビ番組の置かれた構造を変えるのは簡単ではないが、視聴する側のリテラシーを高めて防衛に務めることはその日からできるだろう。だから情報を鵜呑みにせず、多面的に考えることが必要だ。

健康の結論

健康と投資には共通点がある。それはリスクヘッジには分散が効くという点である。

投資は時間、銘柄、国家などを分散することでリスクヘッジになる。全資産日本円だと、円安に見舞われれば含み損を抱えるが、ドルや株、債券やゴールドなど銘柄や投資タイミングなどを分散することでリスクヘッジになる。

栄養も同じで、

  • 短期間で一気に食べない。
  • 早食いをせずよく噛んでゆっくり食べる。
  • 様々な食品をまんべんなく食べる。
  • 調理法にバラエティを持たせる。揚げ物だけ、グリルだけなどではなく、火を通さないローフードや生野菜・生果物など。

こうした時間、食材、調理法などへの分散が、不健康リスクヘッジとして機能するだろう。さらに食べる一方だったり、食べ過ぎると良くないので、適度な運動で消費し、筋肉や骨に還元するように活動をするのが理想的だ。

だが最大の問題がある。それはハッキリいってこれはまったく見新しい話でもなければ、面白みもなく、つまらない提案に感じられてしまうことだ。「そんな話、あなたに言われなくてもとっくに分かってる!」と感じられた人も多いはずだ。

だが、テレビ番組にはなり得ない、このしょうもない話こそが、健康の結論ではないだろうか。健康に限らず、ビジネスでも学問でも王道の道は一見するとつまらなく、平坦に見えてしまうものである。それ故に奇想天外で目新しさばかりに飛びつく人は、すでに目の前にあるはずのシンプルな道を選べないという本質的な難しさがある。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。