岸田総理大臣は、年頭の記者会見で
異次元の少子化対策に挑戦する年にしたい
と述べ、児童手当を中心にした経済的支援の強化などの検討を進める方針を示した。
岸田首相は、財源の話には触れなかったが、自民党の元税制調査会会長で、現在も顧問を務める甘利明前幹事長が、5日夜出演したBSテレ東の「日経ニュースプラス9」で
岸田総理大臣が少子化対策で異次元の対応をすると言うなら、例えば児童手当なら財源論にまでつなげていかなければならない
と発言し、その上で
子育ては全国民に関わり、幅広く支えていく体制を取らなければならず、将来の消費税も含めて少し地に足をつけた議論をしなければならない
と述べ、少子化対策を進めるための財源として、将来的な消費税率の引き上げも検討の対象になるという認識を示したと、新聞各紙、NHKニュース等で報じられた。
「甘利消費増税発言」が報じられるや、ツイッター上でも「消費増税の検討」トレンドとなり、甘利氏自身の「政治とカネ」問題も含め、批判で炎上状態となった。
年明けに、岸田首相が「異次元の少子化対策」と大きくぶち上げたのに、その直後の甘利氏の「消費増税」発言で国民からの反発を受けたことで、水を差された形になり、政府・自民党サイドも、鈴木俊一財務相は、1月6日の閣議後会見で甘利氏の発言について、
将来の消費税について政府が具体的な検討はしていない
と述べ、 松野博一官房長官も同様に、
(消費増税に)当面触れることは考えていない
世耕弘成自民党参議院幹事長も、ラジオ番組で
党の一部に「消費税で」という話もあったが、ちょっと拙速だ
と述べるなどと火消しに躍起になった。
ところが、甘利氏は、7日夜、自身のツイッターを更新し、
テレビ出演の際の消費税に関する件ですが、要旨は以下の通りであり、真意を伝えず断片的事実を繋ぎ合わせる報道はミスリードです
と、以下のような「司会者とのやり取り」をツイートした。
司会:総理が異次元の少子化対策を明言しましたが財源は消費税でやるんですか?
甘利:いや総理は消費税をひき上げる積もりはないと思います
司会:ならどうするんですか
甘利:色々やりくりをして行くんでしょう
司会:将来に渡って消費税は上げないんですか
甘利:将来消費税を引き上げる必要が生じた時には増税分は優先的に少子化対策に向けるべきとは思います
もし、甘利氏が書いている通りのやり取りだったとすると、報道は、実際の甘利発言とはかなり趣旨が違うということになる。少なくとも、「総理は消費税をひき上げる積もりはないと思います」「色々やりくりをして行くんでしょう」と発言しているのであれば、むしろ、少子化対策のための消費税増税には消極的な発言をしたことになる。
甘利氏の発言内容は、出演したテレ東のニュースで紹介されている。ところが、発言した甘利氏本人が、「断片的事実を繋ぎ合わせるミスリードの報道」で趣旨が違うと言って、「真実のやり取り」まで具体的に書いてツイートしているのだ。「少子化対策と消費増税」という重要な問題についての重大な問題報道になると思うのが当然だ。
私自身も、甘利氏が「少子化対策のための消費税増税が検討の対象になる」と発言したと報じられたことに対して、すぐに、自らのYouTubeチャンネル《郷原信郎の「日本の権力を斬る!」》で甘利氏の発言の批判をしていたこともあり、
その前提が違うのであれば放置できない問題だと思い、至急、甘利氏がツイートで引用していたBSテレ東の日経ニュースプラス9番組動画を確認した。
しかし、甘利氏が引用している番組動画をいくら見ても、ツイートで書いている「やり取り」は発見できない。私が見たところでは、甘利氏の発言は、ニュース、記事で紹介されてる通りだ。甘利氏が、報道は断片的事実を繋ぎ合わせるものでミスリードだと言って、示している「真実の発言」のやり取りが、動画を何回見てみても確認できないのだ。
私は、1月8日朝、
そして、1月9日朝には、
とツイートした。
これらの私のツイートには、賛同するリプライや引用ツイートがあり、甘利氏がツイートで引用する番組動画には、「書かれているやり取りはない」、というツイートが多数あったが、甘利氏からは、その後全く反応はなく、問題のツイート以降、沈黙している。
甘利氏は、敢えて、消費税論議に先鞭をつけていい格好しようとしたものの、逆風が予想以上に大きいことに狼狽して、その発言自体をなかったことにしようとしたのだろうか。
それにしても、自らのテレビ番組での発言について、ツイートで「報道がミスリード」だと批判し、テレビ出演での「やり取り」を具体的に示したにもかかわらず、その「やり取り」が実際には全く無かったのだとすると、「司会者とのやり取り」を「捏造」したことになる。
甘利氏は、小選挙区落選で幹事長は辞任したとは言え、今なお、自民党の重鎮、実力者であり、しかも自民党税制調査会に大きな影響力を有する。その甘利氏が、岸田首相が打ち出した少子化対策の財源について、「消費増税の検討」について積極的な発言をしたのか、それを否定するような発言をしたのか、それは、今後の消費税をめぐる議論においても、重要な話のはずだ。もし、その点について、甘利氏が「やり取り」を捏造してツイートしたのだとすると、自民党有力政治家の発言の信頼性そのものに関わる重大な問題である。
ところが、不可解なことに、このように甘利氏が「真意を伝えず断片的事実を繋ぎ合わせる報道はミスリード」とツイートしていることに対して、「甘利氏消費増税発言」を報じた新聞、テレビ等は、それに反論するわけでもなく、批判を受け入れて訂正するでもなく、完全にスルーしてしまっている。
中には、スポニチのように、【甘利明氏 少子化対策の消費増税案に「報道はミスリードです」テレビ番組での発言のやり取りを紹介】と題して、甘利氏のツイートをそのまま垂れ流している記事もある。
岸田首相が、年頭会見でぶち上げた「異次元の少子化対策」というのも、中身は、従来の対策の延長上だ。それを「異次元」にするとすれば、余程、予算規模が大きくするのか、その財源は?と思った途端に出てきた「甘利氏消費増税発言」。
ところが、本人は、その発言を否定して発言を報じる報道をミスリードだと批判、ツイートで、実際の「司会者とのやり取り」まで示しましたが、その「やり取り」は番組動画でも確認できない。しかし、その後、甘利氏は沈黙、報じたマスコミも沈黙している。
年明けから、「甘利氏消費増税発言」をめぐって起きていることは、まさに、「怪」そのものだ。