「年収1000万円」は高収入なのか?

黒坂岳央です。

「年収1000万」というのはキリの良い数字であり、多くの人にとって「理想・目標」の1つという認識があるのではないだろうか?

2022年の「民間給与実態統計調査」では、年収1000万円の給与所得者はわずか4.6%であることが明らかになっている。だいたい20人に1人なので「選ばれし者」という印象があるのではないだろうか?

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そして「年収1000万円」ほど、人によって意見がわかれる収入もないだろう。「都心住み、子持ち世帯では贅沢できない」とか「長らくデフレが続いた日本で暮らすなら十分すぎる金額」といった様々な意見を見る。個人的に思う「年収1000万」について述べたい。

サラリーマンにとっての「年収1000万」感

まず、年収1000万円という金額はサラリーマンの立場でも、その感覚は大きく異なると思っている。

筆者はサラリーマン時代はそれほど目覚ましい活躍ができず、年収1000万円に到達することはできなかった。しかし、同僚や親族の中でこの水準に達する者を何人も見てきた。それを踏まえて思うことに「高度専門職と役員でこの金額の捉え方が違う」ということである。

どういうことか?妻の親族にIT企業でエンジニアをしている者がおり、彼は20代の時点で年収1000万を超えた。勤務先は極めて安定的であり、彼の技術力は極めて高いためにその気になれば転職先にもまったく困らない。つまり、労働市場の中で安定的に年収1000万を得る立場である。彼は家具や住居にお金をドンドン使う。収入が安定的であるという感覚があるということが伝わってくる。

その一方で、役員報酬では意味合いが違ってくる。会社員時代に筆者をとてもかわいがってくれたCFOの男性は年収が1000万円を超えていた。しかし、彼は常に不安を抱えているようで飲み会の時に、「自分なんて実質は契約社員みたいなもの。成果を出せなければすぐお払い箱になる。マイホーム購入はできず、練馬区で賃貸物件だよ」といっていた。

同じサラリーマンでも、立場が違えば年収が1000万円に対する感覚は全然違うと思うのだ。

経営者とフリーランスにとっての「年収1000万」感

次に経営者とフリーランスの年収が1000万感を考えたい。

オーナー社長で中小企業の経営者かつ、安定的に太い顧客をいくつも持っている社長は極めて強い。ちなみに個人的に最強の職業は「オーナー社長」一択だと思っている。

筆者の地元は田舎ではあるが、パッと見であまり華やかそうに思えない酪農や農業経営者の中で、3000万円とか4000万円規模の収入を得て、資産が10億円を超えている人はザラにいる。彼らは影響力を持つインフルエンサーでもなければ、YouTuberでもない。いや、SNSアカウントすらない。

その一方で、彼らは大手企業や食品メーカーの安定して太い契約を持っていて、10年、20年間ずっと同じレベルの収入を安定的に維持している。中小零細企業でもオーナー経営者だと、サラリーマン以上に安定的に高額な役員報酬を得続ける人はいる。そういう人たちにとっての1000万円は「単なる通過点」という感覚に近いのではないだろうか。田舎でも知名度ゼロで小金持ちのオーナー社長という人は結構いる。

その一方でフリーランスは事情が違う事が少なくない。もちろん、トップインフルエンサーで別次元に稼ぎまくって目立つ人がいる。だが、それはフリーランス全体のコンマ数%程度でしかない。

大手クラウドソーシングのランサーズの2021年に発表実態調査によると、日本のフリーランスは全労働者の24%、1670万人であり全体的な平均年収は200万円に留まる。そして企業経営的に稼いだり、影響力を活用できるインフルエンサー、または高度な専門職という例外を除けば、労働集約的でクライアントワークで働くフリーランスにとってたとえ年収が1000万円でもかなり心もとないと感じるケースが多いはずだ。

たとえばフリーランスYouTuberも栄枯盛衰のレッドオーシャンであり、仮に一時的に1000万円稼げても来年、いや数ヶ月先はどうなるか分からない。米国メガテックIT系プラットフォームに依存する脆弱性は想像以上に大きい。「将来不安で虎の子の資金に手を付けることなどできない」というのが一般的だろう。世間的には華やかそうに見せている人たちも、実際の生活は質素に暮らしているという人は少なくないのだ。

東京と地方の年収1000万円の異なる事情

最後に住む場所による違いである。結論的に東京23区内で家族で住む場合と、地方に住む場合とでまったく違う感覚があるはずだ。

東京では新築マンションは8000万円を超えており、渋谷区や港区などの特区では1億円をゆうに超える。賃貸でもワンルームで10万円以上、というオーダーだ。家族で広々とした空間に住み、子供を私立学校に通わせ、塾通いとなると年収1000万という金額でも「心もとない」という人も少なくないだろう。

一方で地方ではまったく事情が異なる。筆者は長く、東京と大阪に住んでいたのでその感覚が抜けきれないまま熊本県に移住した。そのため、ここに来て住居のあまりの安さに驚いた。昨年、YouTubeの撮影用にオフィスを借りたのだが、東京の2分の1…いや3分の1くらいの価格であり、一人で使うために借りたのに家族4〜5人住めてしまうほどの広さがある。地方で年収1000万あれば、豊かすぎるほどの生活を送ることができるだろう。

年収1000万については、立場や職業、場所によって全然感覚が違ってくる。会社員、フリー、経営者と一通り色々と体験してきた筆者の視点で取り上げただが、概ね大外れということはないと思っているがどうだろうか。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。