卵業者へ値上げを叩く人達に伝えたいこと

黒坂 岳央

黒坂岳央です。

「もうこれ以上、卵の値上げを叩かないで下さい」そんな悲壮感あるツイートが卵の生産者から投稿され、大きな話題を呼んでいる。

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このツイートに限らず、筆者の地元で卵を生産する知人の経営者に対してもクレームを入れる話も耳に入ってくる。最初に結論を言えば、卵業者は上げたくて上げているわけではなく、自分たちの生命線ギリギリのラインまで「必死に耐えている状態」という表現が正しい。

卵に限らず、牛乳などにも値上げに対して「強欲だ!守銭奴だ!」「消費者を舐めている!」という声を出す人は少なくない。彼らが見落としているであろう事実を論考したい。

FatCamera/iStock

コスト高は不回避

筆者は実際に卵や牛乳の生産者の社長たちから話を聞ける立場にあるのでよく分かるのだが、牛乳や卵の昨今の値上げはやりたくてやっているわけではない。

件のツイートでは「利益は2%」とあり、他の業者からも「値上げに便乗してボロ儲け」という話は聞かない。利益2%というのは、あらゆるビジネスの中でもかなりの薄利多売と言える。100万円売上があっても、手元に残るのはたったの2万円ということである。さらに鳥インフルエンザなどが流行って、大量の殺処分となれば想定していた利益など消し飛びいきなり大赤字に転落する。

利益を押し下げている要因は、飼料や飼育に関連する光熱費、資材などの高騰が大きい。原価がドンドン高くなっているのに、売価をそのまま据え置きにすることは、自分たちのビジネスそのものの否定を意味する。赤字が続けば存続は不可能だからだ。

現状が続けば、今後も生産者をやり続けるメリットがなくなってしまい、廃業や後継者不足に苦しみますます将来的に卵の入手が厳しくなるだろう。国内産の卵の入手が困難になる。値上げを叩く人たちもそんな未来は望んではいないはずだ。この状況を切り抜けるには、適正価格をつけることで、卵の生産活動を維持するしかない。

もはや、値上げ以外に生き残る道などどこにもないのである。

デフレ脳からインフレ脳へ

卵や牛乳の生産者たちへ値上げに文句をいう人たちに伝えたいことは、「長きにわたって続いたデフレは終わった。今後はインフレを前提に考えていく局面へと変わった可能性が高い。思考を切り替えてデフレ脳からインフレ脳へと転換した方がいい」ということである。

日本人はあまりにも長くデフレに浸かり続けたことにより、価格と価値についての感覚がグローバルとズレていると感じる事が少なくない。昔は「安かろう悪かろう」という感覚が普通だったと思うが、昨今は「安くていいもの」を自然に求める日本人が多いことは、統計的データの力を借りずとも文化的に立脚する日本人固有の感覚だと想像ができる。

インフレが前提の社会とは、すなわち時間の経過とともに値上げしていくという経済社会に身をおくことになる。それはたとえ中身が変わらず、同じ品質でも値上げは起きることを意味する。たとえば筆者が米国留学をしていた2007年と比べて、同じ大学での学費や寮費などは2倍以上になっている。これはコロナショック後の大規模金融緩和で株式や仮想通貨の大規模バブルが発生するよりかなり前のタイミングから起きていた。息を吸っているだけで値上げする、それがインフレなのだ。

もしも日本が今後長期インフレトレンドに入ったと仮定すると、卵や牛乳を叩いている人たちは生産者に文句をいう代わりに、インフレ経済下での合理的活動ができるよう思考を切り替えて新しき世界の到来に備えるべきではないだろうか。

世界は絶えず変化しているため、現状維持は不可能である。「卵が1パック200円は高すぎる!」という人達は過ぎ去ったかもしれない、デフレの世界へと時計の針を戻したいと願っているのだろう。しかし、誰にもそんなことは不可能である。経済はトレンドでありデフレが終わったなら、可及的速やかにインフレ経済下での生存戦略を構築した方が賢明だろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。