急速に進む牛乳離れ…なぜ牛乳を飲まなくなった?

黒坂岳央です。

牛乳離れが急速に進んでいる。といっても昨今の値上げに伴う日本だけの話ではない。アメリカではかなり以前からその予兆が出ており、2023年時点で急ピッチで進んでいる。牛乳離れの理由は日米で異なるが、いずれにせよその速度は驚くほど速い。

なぜ人々は牛乳を飲まなくなったのか?

alvarez/iStock

アメリカ人が牛乳を飲まなくなったワケ

なぜアメリカ人は牛乳を飲まなくなったのだろうか?まずはその理由を取り上げる。

アメリカ人の牛乳離れは今に始まったことではなく、実は何十年も前から起こっていたことだ。U.S. Department of Agriculture(米国農務省)によると、アメリカ人の年間牛乳消費量は、1945年に一人当たり45ガロンでピークだった。その後、2001年には約23ガロンに減少、2021年は16ガロンまで落ち込んでいる。

特に直近における牛乳離れの理由は大きく2つだ。環境問題と健康問題である。前者についてはソーシャルメディアに慣れたZ世代が主役だ。彼ら/彼女らは気候変動についての関心が強く、ソーシャルメディア上で酪農産業に対する懐疑的な意見が増えていることの影響で、牛乳への抵抗感が強いという。

消費者市場調査会社Circanaによると、2022年、Z世代は全米平均と比べて牛乳の購入比率は20%も少ない。そして健康問題についていえば、乳製品が喘息に悪影響だという声をはじめ、「健康的なイメージは間違っているのでは?」と考える世代が買い控えている。

その一方で、人気を博しているのが植物由来のミルクだ。特にアーモンドミルクは植物由来ミルクの3分の2を占め、ソイミルク、ココナッツミルクが続く。驚くべきことに価格は通常の牛乳より150-200%ほど割高でも消費者は植物由来ミルクを手に取る。

このトレンドは現時点であまり日本人には馴染みがない感覚だ。しかし、時を経て日本上陸する可能性は否定できない。

日本人の牛乳離れ

日本人の牛乳離れも、その予兆が見られた。農林水産省の畜産統計によると、日本の酪農家の戸数は1963年に41万8000だったが、2022年には1万3300ほどとなっている。

コロナショックで学校の度重なる休校に加え、ロシアウクライナ由来のインフレで、餌代が大きく高騰したことで直近でも非常に厳しい状況に置かれた酪農は少なくない。筆者の知っている業者もやめるか?続けるか?の究極の選択を迫られている。

日本人の牛乳消費の減少の原因について、農畜産業振興機構は「人口減少、少子高齢化に加え、飲料市場の多様化で競争が激化した」と分析している。昨今の日本でのインフレはそれに拍車をかけているだろう。牛乳の消費が減れば、グラタンやアイス、ケーキなど牛乳を使用する食品に価格が転嫁されて影響が出る。

牛乳を飲むメリットがなくなっている?

こうした結果を俯瞰すると「牛乳を飲むメリットがなくなっているのでは?」という事情が見えてくる。個人的に牛乳は昔から大好きで今でもよく飲む。世の中から牛乳がなくなってしまうのはとても困るので、できれば日本のおいしい牛乳の存続を心から希望している。だが、そんな牛乳愛好家の筆者でも飲む理由は「おいしい」という点を除けば、ほとんど答えることが難しい。

健康面については、喘息を持たない健常者にも複数の問題が指摘されている(本稿では長くなりすぎるので割愛)。環境問題についていえば、牛のメタンガス排出による温室効果ガス問題が取り上げられる。

こうなってくると牛乳は「健康のために積極的に飲みましょう」というより、「ジュースなどの嗜好品と同じ位置づけ」という見方ができるのではないだろうか。しかも相対的に割高だ。残された道はバターなどの加工品としての用途になるだろう。これも結局「味」というのが唯一のメリットかもしれない。

今、牛乳は岐路を迎えている。今から20年後、いや10年後も牛乳は現在のように手軽に買うことができる存在であり続けるのだろうか?

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。