不十分な「空き家対策特別措置法」改正案:邪魔なものになってきた不動産

今国会で「空き家対策特別措置法」の改正案が審議される予定です。通過すれば空き家に対する取り締まりが強化され、空き家となった古家を持つ方々に大きなプレッシャーとなります。どういうことか、みてみましょう。

2015年に施行された「空き家対策特別措置法」は管理が著しく悪い古家を「特定空き家」とすることで行政が所有者に管理を指導し、それが出来なければ固定資産税額を1/6に減額するメリットを解除するというものでした。この管理が著しく悪い古家とは例えば倒壊の危険性、不衛生、周囲の景観を損ねる、周辺の生活環境を著しく乱すといった内容ですが、ある意味、抽象的な定義であり、「著しい」が何と比べてそうなるのか、難しい判断でありました。その結果、その法律が施行されてから「特定空き家」に指定されたのはわずか4万戸程度とされています。

Tsubasa Henmi/iStock

当然、それでは改善は進まないばかりか、7年間の年月で空き家は増え、空き家だった家はより状態が悪化しているわけで国交省としてはこの法律の強化を通じて空き家対策が求められていたので今回の改正案となったわけです。

改正案では「特定空き家」に指定される前段階の家についても固定資産税の1/6のメリットを召し上げる内容です。具体的には管理不適切、倒壊の危険はなくても住宅の一部に破損、変形がある、放置すれば「特定空き家」になる予備軍の場合です。解釈は微妙です。住宅の一部に破損、変形があるケースなど恣意的にいくらでも指摘できます。日本なのでそこは良心的に解釈すると思いますが、可能性としては隣家あたりからのクレームに基づき行政が動くのだと思います。

たとえば庭木を手入れしておらず隣地に大きくはみ出している場合、不法侵入、不法占拠されるリスク、放火のリスク、いかにも空き家放置の状態が長く続いている場合などになると思います。試算ではこの対象は50万戸に上るだろうとされています。空き家数は2018年で849万戸でしたので今では900万戸に近い戸数に達してると想像できますが、そのうちの50万戸ですから5.5%にしかなりません。では私が片手落ちに見えると思うのは何故でしょうか?

一つ目は実情、固定資産税のメリットが無くなっても放置する人が続出するだろうという点です。そもそも上屋は価値がない訳だし、土地も地方なら目の玉が飛び出る金額ではないと思うのです。6倍が独り歩きするけれどそもそもの額が小さければ放置が続く可能性はあるということです。

管理が出来ていない「特定空き家」ないし「準特定空き家」の多くは地方に存在すると思われます。地方の親御さんがお亡くなりになり、子供が継いだけれど子供は大都市や遠隔地に住んでいる場合、放置するケースが大半かと思います。少子化となり、相続人が昔のように入り組むケースは減ってきて所有権を持つのは1-3人程度で収まっているケースが多いとみています。むしろそれゆえに空き家の面倒見る人が実家のそばにいないのかと思います。

それらの住宅は「実家だから」という理由だけで放置していると思うのですが、家は住まないと傷むので個人的にはそのような哀愁だけならば取り壊すべきと思います。残念ながら地方に於いて古家を改築して若い方に貸すとしても需要はかなり限定的だし、改修コストもカバーできないかもしれません。

では解体して更地にするにはどれだけかかるかと言えばあくまでも参考程度に申し上げれば200万円前後だと思います。土地の価値は場所によりますが、地方の住宅地ならばさほど期待できるものではありません。それこそ解体しても誰も買わない「実質無価値」になるとみています。

今、親の資産を相続する世代は土地神話をそれなりに見聞きしたり、体験した人が多いと思います。ですが、不動産に普遍的価値があったのは80年代まで。その後は価値ある不動産と無価値の不動産に振り分けられたのです。個人的には都内の不動産でも駅から遠い利便性の悪い不動産は買い手がつかなくなるとみています。路線価がいくらだろうが、それは取引の目ぼしであり、実際には需要と供給だということです。

〇〇に土地がある、△△の山を持っているというのは資産家の気分にさせているだけで実際には誰も欲しがらないのです。事実、北海道の山林が中国人に買い取られているのは山林所有者からすれば売りたくても買い手がずっといなかったからです。それが突然、まずまずの金額で買ってくれる中国人が現れたならば「どうぞ、喜んで」になってしまうのです。それが北海道の山林取引の実態です。

ということは今回の空き家対策措置法で細心の注意を払うべき点は破格の不動産を誰が買うか、であります。外国人が爆買いする可能性がある点について規制や対策はほとんどありません。ここが日本の法律の構造上の問題なのです。今回の法案は国交省が出すのですが、不動産の流動化を目論んでいるのですが、その買い手が外国人ばかりだったらどうするのか、という点につき、法務省や警察と調整しているのか、あるいは対策法案をどこかに謳い込んでいるのかと言えばNOでしょう。

もう一つは不動産価格の二極化がより鮮明になる点です。商店街がシャッター街になり、ほとんど無価値のアーケード街になったように住宅地は歯抜けになり、不動産の需要は大きく減退するでしょう。とすれば利便性など特定の需要喚起が出来ない不動産は価格がつきにくくなり、相対的に不動産価格を押し下げる効果が出てくるとみています。

以前から繰り返し申し上げている通り日本には住宅が多すぎる反面、少子化なのです。子供の出生者数が80万人を切っているのに新規住宅は年間80万戸以上供給されているのです。この計算、どうやっても成り立たないのです。

不動産とはある意味、価値のあるものだったものが邪魔なものになってきたというのが日本の実態かもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年4月26日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。