2023年3月、米国のシリコンバレー銀行が経営破綻したというニュースが世界を駆け巡った。その破綻に至るまで過程で明らかになったのは、同行が約100億円にもわたる金額を極左暴力集団であるNGO「ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter; BLM)、以下BLM」に寄付していたという事実であった。
約100億円という金額は、ツバルの年間GDPに相当する金額となる。ちなみにBLMに対する最高寄付金額はJPモルガンによる約4兆円であり、これは地中海の島国・キプロスのGDPよりも多額となる。
これら金融機関などからの寄付の結果、BLMは合計約13兆円の寄付を受けてきていたことが明らかになっているわけだが、これはアフリカ46カ国のGDPを上回る額であるとされ、日本で言えば東京都、千葉県、埼玉県の年間予算の合計以上の金額である。つまり、全米で猛威を振るったBLMに潤沢な資金して来たのは、米国の大手金融機関であったわけだ。
BLM運動活発化の発端
BLMは2020年5月のミネアポリス近郊でジョージ・フロイド氏が白人警察官による不適切な拘束により死亡したとされたことを受けて以来、大規模なデモを展開しはじめた組織だ。フロイド氏が白人警察官に首を圧迫されながら亡くなったという報道を見れば、多くの人が警察官の対応は不適切だったとの印象を持ったことであろう。
しかし、実は当該警察官の行動は警察学校で教えられてきた通りの通常手順に従ったに過ぎず、フロイド氏の死因は、違法薬物であるフェンタニルの過剰摂取によるものだったのではないかという報道もなされている。
フロイド氏が亡くなってしまった現在、もはや本当の死因は闇の中だが、フロイド氏が妊婦を襲って金を奪った強盗容疑で服役した前科者であり、また偽札使用容疑で取り押さえられた薬物使用者でもあったということは事実であり、少なくとも警察の悪事に立ち向かった「ヒーロー」として殉教したわけではないことはもっと広く知られるべきだろう。
フロイド氏のケースを受け、BLMは「白人警察による黒人の不当な殺害であり、このような事例が続くことはうんざり!」と非難しているが、統計データを確認すると、白人警察による黒人の不当な殺害が行われているという状況はまったく見えてこない。むしろ、黒人は圧倒的な割合で、同じ黒人により殺害されているのだ。
米国連邦捜査局(FBI)の2019年の他殺データによると、黒人が被害者のケースは88.6%の割合で加害者は黒人となり、8.5%の割合で白人が加害者となる。補足すると、白人が被害者で加害者が白人の割合は78.6%であり、17.2%の割合で黒人が加害者であった。
人数・割合共に、黒人が加害者として白人を殺害するケースが白人が加害者として黒人を殺害するケースよりも多く、この傾向は数年間、まったく変化がない。つまり「警官による黒人への不当かつ暴力的な人種差別」を叫ぶBLMの主張は、客観的な事実から眺めてみても根拠は薄弱である。
過激な暴力行為を働くBLM
一方日本では、BLMは黒人の権利向上を目指した平和的な活動を行うNGOとして紹介されることが多い。しかし、彼らの実態は極左暴力集団である。事実、彼らが差別撤廃を盾に数多くの破壊活動に手を染めていることは米国では報道されており、彼らの破壊工作による経済的な損失は巨額だ。すでに2020年9月の時点でBLMの暴動、放火、略奪、破壊によって、1,300億円以上の保険会社の支払いが発生していたとされる。
そのため、元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏は「BLMを国内テロ組織に指定してはどうか」と示唆していたほどだった。さらに、BLMの創設者らは自らを訓練されたマルクス主義者であると自己紹介している。これを受けてジュリアーニ氏は「テロリストを公言する3人の共産主義者が運営するBLMに、アメリカの大企業がお金を出すのは理解できない」と嘆いていたのだ。
シリコンバレー銀行などが寄付を行っていたBLMとは、まさにそんな国内テロ組織に指定してもおかしくないほどに過激な活動を行っていた組織だったのだ。
もちろん筆者も、米国では黒人等に対する人種差別の問題があることは認識しているし、人種に関する平和的な啓蒙活動をする自由は保証され、尊重されてしかるべきだと思う。しかし、差別反対を錦の御旗として掲げて暴力を働くことは決して許されるべきではあるまい。
過激な暴力行為を働くBLMを企業が支援する背景
米国は今、「白人至上主義の遺産」が法律や制度を通じて現代社会に今現在も組み込まれている、つまり米国の社会全体は白人に有利にできている、という「批判的人種理論(クリティカル・レイス・セオリー)」に関する議論で揺れている。
前稿で筆者は「左派は、(中略)『進歩的な』アジェンダを推進するよう企業に強要している」という点を取り上げたが、この「批判的人種理論」は当然そんな「進歩的な」アジェンダにも含まれているため、各社は自社が人種差別的な企業ではないことのアピールの一環として寄付を行っていたのかもしれない。しかし、あそこまでの破壊工作を行うに至ったBLMに対しては、今でも大きな声で疑義を呈することができない現実があるのもまた事実だ。
その理由の一つは、現在アメリカで広がりつつある「ホワイト・ギルト」によるものではないかと筆者は考えている。特に、前述の「批判的人種理論」が教育にも盛り込まれている州などでは、自分自身が(かつて黒人などを差別した)白人であること自体に罪の意識を抱くといった、ある種の自虐史観を持つ若い白人系米国人(ホワイト・ギルト)が増えつつあるのだ。
さらにもう一つの理由は、前稿で紹介したPayPalの利用の制限のような、「ESGの兵器化」による圧力もあるだろう。実際PayPal社は、公民権を守る活動を行うNGO「南部貧困法律センター(Southern Poverty Law Center; SPLC)」とパートナーシップを結び、同センターがブラックリストに掲載した人物が自社の顧客であった場合には、それらのアカウントを閉鎖するといったことまで行っている。
また、PayPalと同じく左派に分類されるグーグルやメタ(旧Facebook)等による厳しい検閲もあり、また、検閲で内容が削除されたりまではしないまでも、BLMの活動に疑義を呈すればその人自身が「人種差別主義者である」と見做され干されてしまう恐れもあったはずだ。
「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」に対して「オール・ライブズ・マター(全ての命が大切だ)」という声は「ブラック・ライブズ・マターの意味を分かっていない、無神経だ」として批判を浴びているとの見解も示されている。
もちろん、BLMに表立って疑義を呈さない人の中にも堪忍袋の緒が切れそうになっている人はいて、米国のオルタナティブメディアの取材などを見るに、「『進歩的な』アジェンダ」を推進する一部の左派エリート層と、そんなアジェンダの蔓延に息が詰まりそうになっている一般国民との間の分断が広がっているようにも見える。
BLMの破壊行為によって罪なき人々が襲われ、彼らの店舗が焼かれるなどして甚大な被害が出ている状況があるにもかかわらず、政府がその活動を容認している状況を見た識者のなかには「米国政府は国民に対して戦争を仕掛けている!」と叫ぶ声もあるほどだ。
そんな米国政府にバックアップされた過激な活動を行うBLMに13兆円という莫大な資金が渡ってしまったことは、今後の米国の状況を占ううえで不吉なものを感じさせる。
今後、一部の左派エリート層と一般国民との対立を深める何かしらの活動が、資金潤沢なBLMによって展開されていく可能性は決して低くはないだろうが、これは下手をしたら、次稿で触れる米国を目指す「キャラバン」の逆回転、つまり、米国から海外へ逃避する「逆キャラバン」が起こる可能性もあるだろうし、あるいは、すでに一部で囁かれている米国内における内戦にさえ繋がりかねないだろう。
これらは、米国の国力を弱め、人々を分断し、社会の大きな変革に繋がる可能性があるという点で、結果的に世界経済フォーラムが謳う「壮大(グレート)なる仕切り直し(リセット)」の一環の動きのように思えてならない。