財務省は「国の借金は過去最大の1270兆円」と発表しました。それに例によって「反緊縮派」が噛みついていますが、これは誤解です。
Q. 国の借金って何ですか?
政府債務の集計には「国の借金」と「地方の借金」、そして長期債務と短期債務があります。このうちきょう発表されたのは、国債と政府短期証券などを合計した「国の借金」で、1270兆4990億円です。
Q. これは「国民の借金」なんですか?
違います。これは政府債務ですから、国民はお金を貸している債権者です。だから「政府の赤字は国民の黒字」というのは正しい。
Q. では借金に見合う資産があるので安心ですね?
いいえ、借金に見合う資産はありません。これは前田順一郎さんの計算した統合政府のバランスシート(2021年)ですが、統合政府の資産は904兆円で、債務1438兆円より534兆円少ないのです。これを債務超過といいます。
Q. 借金が資産より多いと、つぶれるんじゃありませんか?
普通の会社だったら、534兆円も債務超過だったらつぶれますが、国の場合は大丈夫です。増税すれば黒字になるからです。
Q. でも増税で534兆円も黒字を出すのは無理じゃないですか?
そうですね。でも国債を買う銀行や生命保険会社の人が大丈夫と思っているので、大丈夫なのです。
Q. では銀行が危ないと思ったら危ないんですか?
はい。でも戦後は一度もそういうことは起こっていません。日本国債は、むしろ安全だと思われすぎて、実質金利(長期金利-予想インフレ率)がマイナスになってるんです。
Q. ではもっと国債を発行しても大丈夫でしょうか?
去年までは大丈夫でしたが、今年は長期金利が上がってきたので危険です。金利が上がると、今までに発行された国債の価格が下がるので、みんなが「もっと下がる」と思って国債を売ると、さらに価格が下がる…というふうに雪ダルマ式に価格が下がるかもしれません。
Q. では今、話題になっている防衛費で借金を増やすのは危険なのでしょうか?
これは防衛費という歳出と結びつけて考えるのはまちがいです。一般会計のお金に色はついてないので、防衛費でも社会保障費でも1兆円は1兆円です。
大事なことは民間と政府の合計で需給ギャップがあるかどうかですが、今はほぼプラマイゼロですから、あまり政府が借金すると金利が上がるかもしれません。
Q. 国債を60年で返すルールをやめるべきだという人もいますね。
これは正しいと思います。今年度予算にも債務償還費16.7兆円が計上されています。償還というのは借金を返すという意味ですが、実際には国債は償還されていません。
このお金は国債整理基金特別会計にくり入れられ、その基金が国債(右の図の「特例公債」の一部)を発行しています。つまり特別会計で借り替えているので、借金は返していないのです。
この基金で借りたお金16.7兆円は一般会計の歳入に計上されているので、歳出と歳入を15%水増ししています。こんな変な会計処理をしているのは日本だけです。
Q. では国債を60年で償還するルールをやめると、予算が浮くんでしょうか?
残念ながら、そうは行きません。歳出は16.7兆円減りますが、歳入(国債整理基金からのくり入れ)も16.7兆円減るので、財政赤字の額は同じです。
でも歳入と歳出を15%も水増しする慣行はよくないので、やめたほうがいいと思います。防衛費については財源論と関係なく、必要な装備や人件費を考えればいいんじゃないでしょうか。
日本の国債は一貫して増え続けて借り替えているので、永久国債と同じです。それを日銀が買い取るなら、無意味な60年償還ルールは廃止して、償還期限なしの「防衛国債」を発行してはどうでしょうか。