「人生の幸福」は足し算ではなく引き算で考えなさい

黒坂岳央です。

世界人口78億人の民、全員が共通で望んでいることがあるとすればそれは「幸せになりたい」ということではないだろうか。問題はその幸福論が人それぞれものさしや価値観が違うということである。

自分なりにたどり着いた幸福の哲学の答えの一つが「足し算ではなく、引き算で掴む」というものである。本稿でこれを論じたい。

Jorm Sangsorn/iStock

「幸福に慣れる」という不幸

人は往々にして、あっという間に感謝を忘れて「ありがとう」が「当たり前」になってしまうやっかいな機能性がある。

就活や転職では自ら希望して応募し給与を得ているのに、いつしかお給料や福利厚生はあって当たり前という感覚になり、「安月給で働かせている!」「自分は働きに見合った給与を得ていない!」と言い出す。自分もえらそうなことはいえず、昔はそう思っていた時期もあった。

人は幸福にはあっという間に慣れてしまい、感謝を忘れてしまう。そうなれば今度は悪い面ばかりがクローズアップされてしまうものだ。つまり、意識的に幸福を考えなければ誰しもが「幸福に慣れる」という不幸が始まることになる。

爪の先に火を灯す努力で100万円を貯金したら、今後は200万円、やがて1000万円を貯金しても次々と目標が出てくるのでキリがなく、「他の人はもっと持っている。自分はそれに比べて少ない」と悪い面を見るようになる。1つ目の幸福に慣れたら次は2つ目、3つ目の幸福を求める旅へと出かける。しかし、ユートピアは世の中にはない。待ち受けるのは第2、第3の確実な慣れである。

そう、幸福を増やそうとする足し算の発想では、恒久的な幸せを掴むことは出来ないと思うのだ。

不幸を引き算する発想

幸福にはあっという間に慣れてしまうと書いた。その一方で人間は不幸にはなかなか慣れない。職場に嫌な人間が一人いたら、よしんば残りの100人が気の合う仲間がいてもずっと不快指数は高いままだ。SNSの投稿に対して100件のポジティブなコメントがついても、1件の嫌なコメントがついたらその瞬間に不幸になる。人の持つ機能性は簡単に幸福になることを許してくれない。

そこで提案したいのが「幸福を足し算するのではなく、不幸を引き算する」という発想だ。人間関係についていえば、気の合う仲間や一緒にいて楽しいともだちを増やし続けようとすると、どこかで気の合わない、そして簡単に損切りできない人間関係が生まれてしまう。この場合、思い切って人間関係をいたずらに増やそうとするのを完全にやめてしまい、ネガティブな人間関係を極力ゼロに近づけようという考え方だ。そうすることで人間関係の悩みを減らすことができれば、自然と幸福に近づくことができると思うのである。

昨今、ミニマリストな生き方が奨励されているのも、自分の人生には本当は必要のない、重要でない要素を引き算していこうという発想から来ているのではないだろうか。

モノが増えれば必然的にメンテナンスの手間が生まれる。自宅で過ごす時間を楽しくしようと、観葉植物や絵画、小物をたくさん買い込んだ結果、掃除や手入れの手間が増えて逆に楽しく過ごす時間が減ってしまったり、メンテナンスの手間が増えたら本末転倒である。なかったら直ちに困るもの意外は極力持たないことで、手間や時間の消耗といった不幸を引き算できる。

筆者は最近、意識的に自分の気持ちが暗くなる話題やニュースを遠ざけるようにしている。たとえば自分でも他人でも「子供に関する悲劇的な話題」は絶対に聞きたくないと思ってしまう。知ったところで何もメリットはなく、ただ気持ちが悲しくなってしまうだけだからだ。これも一つの引き算の発想である。

ネガティブ要素を徹底的に排除すれば、待っているのは快適で楽しいシンプルライフだ。若い頃はとかく、いろんな選択肢、いろんなもの、いろんな人間関係でずいぶん苦しんだ時期もあったが、思い切って引き算をすることで人生はグッと楽に生きられると思うのである。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。