インフレが上昇すればするほど消費が伸びる不思議な国
一般に経済が不景気で、インフレが高騰、その一方で給与は下降すると誰もが消費を控える傾向にある。ところが、アルゼンチンの特異性は、国民が自国通貨ペソを手放すべく耐久消費財の購入やレストランで食事や旅行したりするのである。手持ちのペソをできるだけ早く使い切るという選択をするのである。
そんなことで、昨年末はレストランやバルはお客で賑わったそうだ。その理由は明白。高騰するインフレの前に、ペソを今日使っておかないと、インフレで明日同じ金額では今日したことができなくなる可能性があるからだ。
買い物をするにもアルゼンチン人が生活の知恵として学んだことは、いつ、どこのスーパーに行けば特価販売があるかというのを調べることである。
またアルゼンチン人にとって良い投資のひとつは、缶詰、シャンプー、ワイン更に衣類、携帯電話、家電製品などを購入することである。これらの商品は長期間保存が効き、また長期使用できるということだ。特に家電製品への需要が高いという。それがひと月後には同じ価格では購入できなくなるという懸念からである。例えば、家電製品だと昨年1月から5月までで24%の値上がりがあったという。
一方、販売者にとって問題は、追加したい商品を仕入れられなくなることが往々にしてあるということだ。メーカーがドル規制で必要な部品が輸入できなくなって商品が生産できなくなるからである。同様に販売者はできるだけ後に商品を販売しようとする傾向にある。その方がインフレの上昇で今より高い価格で販売できるからである。
消費者は支払いにクレジットカードを使う傾向にある。政府が奨励している6カ月、12か月、18カ月払いを利用するのである。その金利は勿論インフレの上昇率よりも低い。(以上2022年7月28日付「BBC Mundo」から引用」。
アルゼンチンは自然資源と食糧に恵まれすぎているのが不幸
アルゼンチンの歴史的不幸は自然資源や食糧に恵まれた豊かな国であるということだ。子供が小さい頃からなに不自由なく恵まれた環境の中で育つと物の価値が分からず、まともな人格にならない場合が良くある。アルゼンチンが正にこれである。
アルゼンチンは20世紀初頭にはGDPで世界のトップの国であった。アルゼンチンはヨーロッパの食糧倉庫として発展。しかし、世界恐慌の後のアルゼンチンの経済は後退した。また軍事政権が頻繁に登場。
1946年にペロン将軍が政界に登場して産業の発展を図ったが、企業の国営化を推進して行った。当初はそれで経済は安定して発展するかに見えたが、企業は寡占化し生産性は後退。その一方で労働者を保護する意味で大幅な賃上げを実施。政府の歳出が増加。その一方で貿易取引は疎かになった。
また国内で大半のものが手に入るので、外国からの投資も避けた。自給自足の経済を推進したのである。その傾向は現在も見られる。国の経済規模の割に輸出量が少ないのである。だから、外貨は常に不足する傾向にあり、政府は紙幣を増刷して財政赤字を補う習慣が続いている。財政緊縮は苦手。正に、インフレが高騰する体質になているのである。
自国通貨ペソへの国民の信頼はゼロ
高騰するインフレの前に自国通貨ペソへの国民の信頼はゼロ。国民は貯金は米ドルでしようとする。ところが、政府も外貨が常に不足する傾向にあるので、市民がドルを手に入れるのは容易ではない。だからドルも常に高騰。それがまたインフレを煽っている。
2011年3月の公式レートを見ると1ドル4.04ペソであったのが、2023年3月は207.50ペソとなっている。闇レートだと4.15ペソであったのが、388ペソになっている。今年末には公式レートが398.50ペソ、来年末は862.50ペソまで上昇すると予測されている。(「Estudio del Amo」から引用)。
アルゼンチンの経済予測中央値(REM)によると、今年のインフレは126.4%になる見込みだという。そして2024年は107.5%、2025年は55.5%というインフレ率を挙げた。(5月5日付「アムビト」から引用)。
アルゼンチンのマクリ前大統領までのこの100年余りの年平均インフレは105%。軍事政権が終わって民主化政治になった1989年のインフレは3079%だった。(2018年7月11日付「インフォバエ」から引用)。
今年は大統領選挙が予定されている。アルゼンチンの民主政権を長年維持して来たのは正義党ではあるが、同党出身のアルベルト・フェルナンデス大統領は二期目を目指すことを既に放棄している。不人気で立候補しても当選しないことが明らかになっているからである。