この世で最も愚かな節約は?

黒坂岳央です。

世の中には効果がない、いやむしろお金を減らしてしまう誤った節約法がいくつもある。たとえば隣町まで1円安い卵をガソリンを使って買いに行く、みたいなものである。しかし数ある誤った節約法で最も愚かなものがあるとすれば、それは「勉強への投資」である。

昨今はなんでも無料になった。昔は数十万円出さないと受講できなかった会計やプログラミングなどのクラスがYouTubeにいくらでも出ている。投資の必要がない出費は確かにムダである。しかし、依然出費が必要な場面はどうしてもある。問題はそういう時に節約のためと買わないことだ。件のYouTube動画での無料講義も、別途有料でサポートが付いて来て学習が進むなら思い切って投資するべきである。

ハッキリいって知識の節約は愚かである。なぜなら無知は投資より遥かに高くつくからだ。

ArLawKa AungTun/iStock

最もリターンが大きいのは自己投資

サラリーマンであれ、フリーランスであれ、世の中の仕事は本質的に労働力が売買されている。たとえば自分が会社員の頃は決算書の分析を米国本社にレポーティングしたり、海外のシステムを導入する支援業務という労働に対して給与が支払われていたことになる。

そしてその労働力は技術で付加価値を付けることができる。筆者の事例で言えば上記の仕事をこなすにはビジネス英語が求められる。仕事上、外国人とのコミュニケーションが多くその時の使用言語が英語だからだ。社内の同じ部署のスタッフには財務経理の知識が豊富な人もいたが、さらに英語力がある筆者の方が等級を上に付けてもらっており、給与が高かった。つまらない稚拙な自慢をしたいわけではなく、同じ時間、同じ部署で仕事をするのでも技術分、対価に差が出るという事例である。

技術とは知識と経験を合わせたものである。つまり、起点は知識であり、知識は勉強することで身につく。筆者はこの米国会計の技術を米国大学留学と、土日に通っていた会計専門校で勉強した。その勉強した結果、技術を身に着け給与を得ていた。その技術部分の対価は年間で200万円ほど、10年過ごせば2000万円の差になる。この差はサラリーマンの給与所得では相当に大きい。早い段階で勉強に投資して身につけるべきなのだ。

昨今、資産運用の必要性が問われるが、より確実性が高くより投資リターンが大きいのは自分自身への技術への投資だ。節約をして技術を取り損ねてしまえば、機会損失は節約できたコストどころではなくなる。

本の売れない時代に本を買う

筆者は頻繁に本を買って読む。プライベートでの贅沢にはあまり興味がないし、ムダな買い物は好きではないが面白そうな本は値段を見ずにすぐに買う。本代だけでも結構お金を使っている。

昨今、本が売れない時代だということはよく理解している。「YouTubeを使えば無料で学べるのに、未だに勉強を本でする人は情弱」とすら言う人もいる。だが筆者に言わせれば本を読まない自分を正当化する主張こそ情弱な思考だと思うのだ。

確かにYouTubeには優れたコンテンツが多い。海外のコンテンツの中には一流大学の講義を無料で開放しているところもある。その気になれば無料のコンテンツだけで学べることは確かに多い。だが本とYouTubeにはいくつか違いがある。

1つにはコンテンツ量である。自分は日米のビジネス洋書をよく読むが、情報量、情報の信頼性、網羅性、体系性どれをとっても今の時点では書籍が上回っている。さらにYouTubeには上級者に訴求するコンテンツは少ないが、書籍は中級者、上級者までフルラインナップである。動画化はハードルが高く、テキストの方が絶対数が多い。ということは優れたコンテンツの確率も高いといえる(実際そうだ)

もう1つはテキストである強みだ。何かを学ぶ時、動画を好む人とテキストを好む人にわかれる。動画派には見えにくい事実にテキストが持つ圧倒的時間効率の優位性がある。自分はテキスト派なのだが、動画で見る何倍も速く読むし、頭に残りやすい。テキストの方がメモも取りやすく、特に技術の勉強をするなら圧倒的にテキストが効率的である。

「無料でも同じものがあるから」ということでYouTube内で必死に探し続けるより、良質な本を見つけてバシッと買って勉強する方がトータルの時間コストは十分ペイできる。

無知は高くつく

無知ほど高くつくものはない。

たとえば、税金だ。仮想通貨で一躍大儲けするも、利益確定後の税金の支払いについての知識がなかったため家を売却するほどの借金を抱える事になった人や、贈与税や意図せず脱税になってしまい、追徴課税や重加算税などのペナルティを課される人もいる。知っていたらやらなかっただろう。すべては知識不足から来ている。

ビジネススキル、人間関係のコミュニケーションなど、知らないことで損することは世の中にたくさんある。勉強して知っていれば回避できたであろう損失を積み上げると、「教育は高くつく」などと言っていられない。無知の方が圧倒的に高くつくからだ。

これを分かっている人ほど勉強を続ける。知らないことを知ることほど楽しいことはなく、そして役に立つことはない。さらに知識には課税されない。そして効果も永続する。ムダな出費は節約するべきだが、勉強だけは決して節約してはならない。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。