外国人向けと日本人向けの二重価格はどこまで可能か?

訪日外国人数はV字回復の兆しがあり、今後、この動きがさらに定着する可能性があります。外国人に人気な理由はたくさんあります。①食のクオリティ ②観光地が多い ③珍しいものを売っている ④安い ⑤安全 ⑥公共の交通網が発達 ⑦最低限の英語の案内は至る所にあり不自由しなくなった、といったことが上げられます。

私のカナダ人の知人たちも今まで日本の「に」の字も興味なかったのに突然「俺も日本に行ってみたいのだけどどうしたらいいのか?」と聞いてくる状況です。外国人にとって日本はブームというより今まであまりにも埋もれ過ぎていたというのが正解でしょう。私がカナダに来た31年前、日本は物価高でエコノミックアニマルでスーツ着た同じ顔がぞろぞろ会社に向かって歩く、そのイメージしかなかったのです。うまいもの、興味深いところ、人が親切といった要素はほとんど取り上げられませんでした。

時間こそかかったものの訪日した外国人が自国で「楽しかった」という口コミ効果が出てきており、外国人の拡大はしばらく続くと思います。それこそ、観光立国フランスをさほど遠くない時期に追い抜く可能性もあるでしょう。

その中で「安い」という点は外国人を魅了しています。特にJRが発行しているジャパンレールパスは超お得なのです。7日間乗り放題(のぞみ、さくらなど一部を除く)で普通車29650円、グリーン車39600円です。ひかり号で東京ー新大阪間の新幹線正規往復料金が28800円かと思いますのでそれだけでほぼ元が取れることになります。実際には外国人はレールパスを使い倒しており、東京を起点に京都、大阪、広島のゴールデンルートから金沢や東北地方を含め、とにかくどん欲に動きます。

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「それでは安すぎ」という声もあり、10月1日から普通車5万円、グリーン車7万円に引き上げられます。ちょっと高いかな、という気がします。日本の価格設定はずーっと我慢し、ある日突然3割、4割値上げするケースがしばしばあります。JRの今回の値上げ率は67%です。

個人的には2-3年毎に少しずつ値上げする癖をつけておけばよかったのに、と思います。日本全体があまりにも「値上げするビジネス」に鈍感で素人過ぎたと思います。外国では価格改定は毎年あるぐらいの感じで、じわじわ上がっていくのです。日本はそこを見習うべきでしょう。ちなみに外国人向けレールパスの雄、欧州のユーレイルパスは1週間で288米ドル、つまり約42000円ですのでJRの今回の価格設定は強気で仮に先々円高になれば多少の影響は出てくるかもしれません。

さて外国人と日本人の二重価格は可能か、という点です。日経の編集員記事にはアジアの国々で外国人価格制度を取り入れていてある国が数多くあるので可能だろう、と指摘しています。私もそれは知っていて、ある国の観光施設では地元の人の10倍ぐらいの価格を取られたことがあります。地元の人がローカルの人のチケットを買ってくれてそれで入場しようとしたのですが、チケットの色が違うのでばれてしまい、10倍価格で買い直したことがあります。正直言ってよい気分ではありません。同じ人間が同じ施設に入るのにこの価格差は無いだろう、と思うのです。

外国人との二重価格でよく聞くのが北米の大学など教育機関への授業料が数倍差になっている点です。これはある程度説明がつくと思います。教育機関は国家が将来の自国の若者を育成する場であり、その伝授の中で外国人にそれを分け与えるには当然、別建ての授業料は必要だという発想です。また将来に渡りその教育をベースにその国で貢献すれば税金として国家に還元されますが、留学生は「おいしいところ」だけをかじって卒業すれば自国に戻るケースが多いわけで、外国人向け授業料設定はやむを得ないだろうと思います。

ところが日本の大学などは外国人向けの二重価格があまりないのが実態です。プレミアム料金を払って入りたい大学が無いのかもしれませんし、大学側が経営戦略の一環で単に学生数を増やしたい一心で差別価格を導入しないという理由もありそうです。

個人的にはあからさまな外国人への差別的価格は好ましくないと考えています。理由の一つが日本は発展途上にある国と違い、世界に誇るリーダー国であり、施設入場料金などで不用意に差をつけることは国際社会には芳しいわけではないのです。それをするなら戦略と明白な価格差の理由付けが大事でしょう。たとえばニューヨークのメトロポリタン美術館はNY州の在住者は入場料が寄付方式でそれ以外の州の人や外国人は大人30㌦を払わねばなりません。これは外国人差別ではなく、地元民への配慮という形です。

マイナンバーカードを提示すれば安くなるとかインターネットで事前購入する際にマイナンバーを打ち込めば一定の割引料金を得られるといった形にするなどあまり表立って外国人との差別価格を打ち出すべきではないと思います。むしろ、外国人が来ることによって潤う業種も多いものです。地方のホテルや飲食店も外国人が落とすお金をありがたく思っているところも多いのです。

日本経済について将来を危ぶむ声が聞こえてくる中、観光立国は他国がまねできるわけではなく、極めて強いポテンシャルがあること、そしてそれが日本経済には大きな支えになることは理解すべきだと思います。また日本が島国環境の中、日本にいても外国人と接する機会が増えるということは子供や若者世代がそれらの人との接点を持ったり、国際感覚を多少でも身に着けるにも役立つのではないか、と考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年9月28日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。