ウクライナ戦争がもたらしたもう一つ懸念:国家間で闘争するマインドの目覚め

ロシアがウクライナに攻め込んだ時、メディアは連日大々的に取り上げ、「今の時代にこんな戦争が起こえりるのか?」という驚愕の事実に世界中はその行方をかたずをのんで見守っていました。私を含め一部では「この侵攻はすぐに終わるだろう」と楽観視しましたが、結局、1年半近くたった今でも膠着状態が続きます。

プーチン大統領 studiocasper/iStock

その間、世界の人々はウクライナの戦争に関して「まだやっているんだよね」という意識に変わってしまいました。驚きから事実関係を認知する形に変わったのです。この意識の変革は極めて大きな意味があります。

例えは悪いですが、長年禁煙していた人がタバコを一本吸ったとします。「えー、あれだけ我慢していたのに」と本人も周りも驚きます。そして当初は「せっかくここまで禁煙したんだから止めなよ」と助言しますが、本人は止められず、周りも「そうなんだよね、禁煙できなかったみたい」というあきらめに変わります。

先の大戦後、78年経ちました。その間、歴史的ないざこざを根拠にした地域紛争はありましたが、全面的な力による支配を強行するケースは少なかったと思います。イラクを巡る問題では91年の湾岸戦争の際にアメリカを中心とした連合国側の最新兵器が次々飛び出し、人々はテレビの前にくぎ付けになりました。それでもそれは地域紛争という扱いです。

今回のウクライナ戦争も個人的には地域紛争だと考えています。一部の人から第三次世界大戦だ!という声もありましたが、私は一貫してこれはあくまでもロシアが南下して黒海ルートを確保することとソ連時代の名残でウクライナに在住するロシア系住民を取り込む領土戦争と考えています。よって括りとしてはイスラエルとパレスチナの争いに似た部分があると思っています。

但し、今回の紛争の最大のサプライズはこの時代に地上戦を行ったこと、そしてイスラエルとパレスチナのような断続的紛争ではなく、大規模な継続的紛争になっていることです。

これが世界の人々の意識を変えつつあるとすればこれは恐ろしいことになります。

北朝鮮が最高人民会議で「責任ある核保有国として核戦力の発展を高度化する」(産経)とし、戦略核兵器のより強固な展開を憲法に盛り込みました。その背景は日米韓の連携に対抗するというものです。いよいよ国家間の緊張が高まってきたということで一触即発のような事態も想定できます。

台湾問題は台湾側も自国で作った潜水艦の進水式を行いましたが、中国と台湾の武装化は、台湾海峡を挟んだ両サイドの緊張は高め、国家のトップの意思とは別に偶発的事象から戦争に発展するリスクも出てきます。

このような緊張関係は世界のいたるところで見られます。近年1万人以上の死者がでた紛争はウクライナ以外にアフガン、ミャンマー、イエメン、ティグレ(エチオピア、スーダンなどの争い)の5つあり、1000人以上の死者が出た紛争になればそれ以外に18か所もあります。我々が思っている以上に世界は病んでいるのです。

これが当たり前になれば世界は混乱の渦に巻き込まれます。以前も書きましたが、先の両大戦は先進国が主体となり双方が連合なり連携なりをするチームの戦いでした。最近の戦いは地域の個別の戦いで時と場合により先進国がその背後で支援する流れになっています。しかしそれも最近は少なくなってきています。理由は西側諸国では国内世論が一枚岩にならないからです。またアメリカが加担した戦争は必ずしも良い結果をもたらしていないことが多いこともあるでしょう。朝鮮戦争引き分け、ベトナム戦争実質的撤退、イラク撤退、アフガン撤退です。

社会が裕福になればなるほど自己満足をより追及するようになり、戦争へ否定的になりやすくなります。ですが、社会に富が十分に行き渡っていない国家では紛争を通じてでも富を得ようとすることもあり得ます。その点からすると私は台湾海峡問題より北朝鮮の方が怖いのです。それは国民の富が低いことで闘争に対する積極性がはるかに高くなるからです。

ウクライナ戦争は国家間で闘争するマインドを目覚めさせ、戦争に踏み込むメンタル的なハードルを下げてしまいました。今後、世界の雲行きが怪しくなりやしないか、懸念せざるを得ません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年10月6日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。