印象の逆が正しかった「仕事の真実」

黒坂岳央です。

社会に出て働くと、学生時代に持っていた印象とは違った「逆が真実だった」ということがよくある。

今回は筆者の視点で若い頃に持っていた印象と「逆が正しい」と感じた仕事にまつわる4つの法則を取り上げたい。

RichVintage/iStock

誤解1. 起業はリスキー、サラリーマンは安定

自分の両親が起業でうまくいかず、経済的に裕福とはいえない家庭で育ったというのもあり、「起業なんてリスキー」という強烈な印象を持っていた。ビジネス書を読む時も偏重的に「リスキーな起業失敗事例」の情報ばかりが目に飛び込み、「大企業でサラリーマンでキャリアを追いかけたい」というのが学生時代の夢だった。

週末起業時期からカウントして、もう10年間事業者の世界でご飯を食べているがこの考えは完全に間違いだと理解した。確かに事業者の世界に安定性はないかもしれない。1月から11月まで売上0円で、12月は売上1000万円みたいな話は別に珍しくないし、ここまで極端でなくても、繁忙期と閑散期の売上が5-6倍違うのが「普通」という感覚である。一方でサラリーマンは月の給料にそれほど大きな変動はないから、それと比べると不安定な世界と言われるのも無理はないだろう。

しかし、自営業で収益を安定させることは難しくない。たとえば動画編集とライターと翻訳の仕事を掛け持ちする、みたいに複数の仕事をすればいいだけである。特にクライアントワークを受注する類の仕事であれば、仕事量や収入は自分でコントロールできる。

そしてサラリーマンという「立場」は確かに安定している。だが、「勤務先の企業」は安定しているわけではない。今やどの企業も国際的な影響を受け、インフレや為替、金利の変動リスクを乗り越えている。仮に経営判断を誤ったり、ビジネス環境に敗北して勤務先が倒れたら収入も共倒れになる。サラリーマンは転職が可能だが、その時の年齢やスキルによっては厳しい状況におかれることもある。

結論的に十把一絡げに起業はリスキー、サラリーマンは安定とはいえず、どちらも立場や状況次第でどうとでもコントロールできる世界、というのが正しい認識だろう。そのゆらぎをコントローラブルにするのがビジネス力なのだ。

誤解2. 準備ができたら始める

「まだ準備が整っていない。できたらすぐやる」

これまでこの言葉を数え切れないほど聞いてきたが、その後本当に実行した人間を自分はただの一人たりとも知らない。なぜなら仕事の準備は整ってから始めるのではなく、走りながら整えるのが正しい考え方だからだ。

過去に自社で大変優秀な社員がいたので、管理職に任命したことがある。その際、相手からは「自分には管理職の経験なんてないし、そんな器ではないし…」と返ってきたが、「まあ、とりあえずまず3ヶ月やってみてそれからもう一度考えてみてもいいかもよ」と軽いテストのつもりでやってみてと伝えたことがあった。結果としてその人材はその後、立派に管理職にふさわしい立ち振舞いに大きく成長した。3か月後、ヒヤリングをしたら自分の意思でこのまま続けたいと返ってきた。

「役職が人を育てる」という言葉がある。現在管理職をやっている人間は生まれつきカリスマ性やリーダーシップをしっかり持ち合わせていた、なんてことはありえない。役職を持ったから思考が変わり、振る舞いが代わり、そしてふさわしい人格へと成長していったということなのである。つまり先に準備が来るのではなく、役割や舞台が来るわけだ。

自分も昔はガチガチのサラリーマン思考だったが、事業者になってから今は事業者思考・人格の持ち主に変わった。最初から準備が整うのを待っていたら一生そのタイミングは来なかっただろう。

誤解3. お金は使うと増える

「お金は使うと増えるから使え」という言葉がある。確かに資産運用などで現金を金融資産や実物資産へ変えてうまくいけばこの言葉通りになるだろう。しかし、ことビジネスについて言えば「お金は使えると増えるのではなく減る」という当たり前の真実が見えてきた。

たとえば「節税対策だ!スマートに経費化だ!」と言う人がいるが、シンプルに節税のためにお金を使えば手残りのお金は減る。確かに広告宣伝費や事業投資にお金を投じれば増えるかもしれないが、それはビジネスチャンスが到来したときやピンチからの起死回生の一手としてするものであって、節税のために無理にするものではないだろう。

そしてある程度お金に余裕ができると、雑に使ってしまうようになりがちだ。お金がない時期はあれこれ頭を捻って資金的な制約がある中でコストをかけないマーケティングアイデアを振り絞っていたビジネスマンが、安易な流行りの広告に投じて大きく損をしてしまうみたいな感じである。

お金を使って増えるケースは、使う前にある程度、リターンとしての粗利がいつ、どういう形で、どのくらいの規模返ってくるのか?という算段があってことだ。それを持たずしてお金を使うなら、それは単なる浪費でしかない。お金は使うと減るのだ。

誤解4. 人脈は広い方がいい

「人脈は大事」と言う人がいるが、自分はこの意見にはかなり懐疑的である。というのも、世の中には関わって良くなる人と、そうでない人に別れるという当たり前の事実が存在するためだ。「いい人脈は大事」なのであって、とにかく人を数集めればなんでもいいというわけではない。

たとえば個人では優秀な人材でも、集団に属すると途端にだめになるパターンは少なくない。集団に身をおいていることで「自分が頑張らなくても他の人がやるだろう」と責任が希薄化して思考停止するためだ。自分自身、チームワークはとにかく苦手で、個の考えを出す時に変化を嫌う抵抗勢力と交渉するプロセスがムダにしか感じないので、それなら最初からのびのびと自由に一人で仕事をしたいと考えてしまう。結果、今は一人でできる仕事ばかりやっている。

また、一緒に仕事をする相手やお客さんとも相性がある。相性が悪いと労働生産性は著しく落ちる。たとえば「仕事はパフォーマンスを出してナンボの世界なので、必要なことなら忌憚なく意見を出してベストプラクティスを追求するべき」という価値観の人と、「仕事といえども人間感情を害するとうまくいかない。少しくらい納得行かなくても、我慢して小さなことにはイチイチ波風立てるような意見を出すべきではない」という価値観の人が一緒に仕事をするとうまくいかない。どちらかが決定的に間違っているというわけではなく、これは相性問題に近い。

正直、人脈は狭ければ狭いほどいいと思っている。しかし、広さを犠牲にする分、深さがあった方がいいと思うのだ。

今回取り上げたことに限らず、世の中は印象と事実は異なる事がよくある。大事なのは印象を事実にアップデートして、その都度置かれた状況下で最大のパフォーマンスを出すための環境変化に対応することである。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。