10月20日から始まる臨時国会で岸田首相は冒頭解散ではなく、経済対策を打ち出し、「国民のご支持を頂く」ために減税を含む踏み込んだ施策を打ち出すのではないかと噂されています。最終シナリオは分かりませんが、法人税減税や補助金などを絡ませた国民にメリットある対策ではないかとみられます。個人的には所得税減税には踏み込まないだろうとみています。
なぜ、ここで減税議論が生じたのかといえば ①物価高が直撃して生活に苦しい人が増えたとされること、 ②22年度で税収が当初見通しより6兆円も上振れしており、23年度も上振れの可能性があること ③岸田内閣の支持率が低迷していること ではないかと思います。
では減税議論ですが、減税支持派は高橋洋一氏が筆頭でしょう。氏は過去何年も減税を訴えています。その手法については議論が出るたびに若干相違しますが、基本的には日本の持つ資産からすれば減税が出来ないはずはないと説くものです。つまり貸借対照表の負債の項である借金が増えることばかりを見るのではなく、資産がそれ以上に増えていることも見るべきだと。
財務省キラーの高橋氏らしい主張で、財務省が「しぶちん」なのは負債側だけを見せて日本の借金はこんなにひどいと訴えるワンサイドストーリーのだまし討ちである、という趣旨です。
一方、高橋氏の天敵、日経は編集委員記事で「不思議の国の税収還元セール デフレ対応終えられぬ日本」と題して今時、減税などしている場合か、というトーンの主張しています。やるなら必要としているところだけで十分だというかなり強いトーンの主張になっています。日経の視点はどちらかというとキャッシュフロー、つまり損益計算書重視型でかつ、予算配分重視型であり一律減税よりも使わねなばならないお金もあるだろうという発想です。
ここで疑問は予算より収入が多く余ったお金は何処に行くのか、ですが、通常は借金返済です。すっかり聞かなくなったプライマリーバランスですが、無視してよい訳はありません。例えばご家庭の家計で支出が多く、ボーナスでもやりくりできなかった場合、どうしますか?サラ金から借りる人は少ないのでバランスさせるよう努力するはずです。国家でも基本は同じでドイツなどはそのような発想なのですが、日本の財務はアメリカ型になっており、借金が膨れる一方になっています。
では首相の言う「より公平に」という言葉を借りて仮に所得税減税に踏み込んだとします。その場合、程度とやり方にもよりますが、消費が一気に増えます。アメリカのように減税の前倒しのような形で国民に現金をばら撒くと即効性があります。一方、年末調整でそれを行う場合は後ずれしまう上に所得税を十分に払っていない層、つまり低所得者や年金生活者には全くメリットがないことになります。
個人的には経済対策があるなら、物価高で影響を受けたフロー所得が少ない弱者に限定されるべき、とみています。今、お勤めの方は今年は良好なベースアップもあったし、人材不足で給与水準は悪くないという肌感覚が私の日本の事業を通じても感じられます。人が動いており、企業が採用に熱心で転職による実質給与水準の大幅アップになっている様相も一部で見られます。
むしろ厳しいのは個人事業主で仕入れやコストの上昇に対して小売価格を引き上げる価格調整力が市場シェアの理論から困難であるため、利益を圧縮せざるを得なくなります。巷で言うラーメン屋の倒産増加というのはこの典型的な例なのです。
仮に減税で消費が過熱する場合、かねてから検討されている日銀の大規模金融政策の方針転換の背中を押すことになるでしょう。経済対策にかかわりなく、日銀は年内から年初にかけて「大規模緩和」の「大規模」を取る政策にし、来年のしかるべき時期に正常化に踏み込む算段ではないかとみています。所得税減税はそれを前倒しするのみならず、既に0.8%を超えている長期金利をより上がりやすくし、1.0-1.2%程度に向かうことが確実となり、住宅ローンと企業の銀行借り入れ金利に影響が出て、景気をやや冷やしやすい側面が生まれます。
個人的には高橋氏の支持するような案ではない気がします。今回はブロードな減税にせず、的を絞った補助金主体の方が機能するのではないでしょうか?あと、これは簡単ではないですが、年金のインフレ連動が十分機能していない気がします。国民年金の人はある意味、かわいそうなほど物価高に対して無防備状態だと思います。一方、国民年金の支払い金額も長年ほとんど変わっていないのは政府の無策と言われかねません。
つまり飴とムチの使い分けができていないのだと思います。もちろん、政府は恐ろしくてそんなことできない、というでしょう。しかし、財務の健全化とは一方にとっておいしい話ばかりをするのが能ではないのです。ギブアンドテイク、その発想を持ち込まないと日本は貧乏に向かうだけではないでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年10月19日の記事より転載させていただきました。