絶望感しかわかないガザ危機で炙り出された日本の病理

篠田 英朗

ガザにおける人道危機が悪化し続けている。危機を打開できない国際社会の情勢は深刻だ。日本政府は目立った対応策を打ち出す意欲もなく、事態の行方に狼狽し続けている。

絶望が続くガザ地区 PRCS(パレスチナ赤三日月社)Xより

この危機に際して、日本国内の専門家層の役割は大切だ。ところが、根拠不明な扇動的な言説に政治的心情で群がる人々が、不毛な誹謗中傷を繰り返している。中東専門家の役割は大切だが、全く不当な政治的誹謗中傷にさらされて、仕事に集中できないような状況だ。

大衆扇動に長けたYoutuberが、水道を止められたガザ市民が、生活のために海に向かっている姿を映した写真を使って、ガザ市民は海水浴を楽しんでいる、などと主張する。

さらには、イスラエルはガザ南部を攻撃していない、とひたすら主張する。パラレルワールドのような話である。

恐ろしいのは、事実がなんであるかにかかわらず、Youtuberの間違いを指摘する者を見ると、「お前はハマス」「こいつもハマス」といった内容のSNS投稿をひたすら投稿し続けることである。

さらには、批判者に対しては「博士号もないのに偉そうなことを言うな」といった謎の反応である。

こうした雰囲気の中で、与党の政治家が、テレビでイスラエルのプロパガンダを妄信的に広げる発言を断定的に行っている。シファ病院の地下にハマスの司令部などは見つかっていない。ガザで数万人が殺されている軍事行動を正当化し、扇動しさえするような発言をしておきながら、しかしもちろん政治家の方は、責任をとるつもりがない。

それどころか、今後は気を付けるといった反省すらしない。「何を言っても、自分は常に責任がない、だからこれから無責任な発言を続ける」という政治家の態度を、メディアも受け入れる。「面白いか否か」の基準しか持っていないからだろう。ガザで何万人が殺されているかどうか、などということは、日本の政治家にとってもメディアにとっても、「盛り上がるかどうか」ということ以上には、何の意味もない情報でしかないのだろう。

SNSで活発な誹謗中傷活動をしている者たちの多くが、特定政党の党員を堂々と主張し、それを根拠にした威嚇をする現象も起こっている。恥ずかしくないのかと思うが、それどころかさらに組織的活動を充実させて、気に入らない相手をどうやったら社会的に抹殺できるかどうかを相談する以外のことをやっていない。

イスラエルの苛烈な軍事行動は収まりそうもない。

こうした世紀末的な状況に直面して、私のような年寄りなら、自分の残された人生を恥ずかしくなく生きることだけを考えるだけだ。

だが若者は違うだろう。日本の若者の立場に立ちながら、なお絶望だけを感じるのではない未来を構想するには、どうしたらいいのか。厳しい状況だ。


戦争の地政学 (講談社現代新書) 篠田 英朗