東京都心部のマンション価格は天井知らずで億円単位は当たり前になってきました。坪当たり最高エリアでは1400万円、都心でまずまずのところでも坪500万円は覚悟でしょう。とすれば100㎡で1億5千万円です。それでも売れるのは金利が低い、これに尽きるわけです。また、日本の不動産取得は外国人による取得に関しては特殊なエリアを除き、一般的なマンションなどは取得制限はほとんどありません。この辺りが不動産を目当てにしたマネーが入り込んでくる理由だと思います。
さて、カナダ。バンクーバーについていえば1986年の万博以来長期的にはずっと右肩上がりの不動産価格であります。北米第三の街、トロントもマネーとビジネスが集積するようになりすっかり高くなりました。バンクーバーの一等地の集合住宅ですと坪単価換算で750万円程度です。山手線の駅から歩ける高級マンションの価格水準になります。バンクーバーは高いと言ってもやっぱり東京の方がマネーは入り込んできますので物件価格は高いと思います。
さて、最近、バンクーバーであまりよくない噂が出ています。大手デベロッパーが青色吐息というものです。そのからくりを説明しましょう。カナダの開発事業者は土地を取得し、そこに(超)高層の建物を建てる土地用途変更申請を伴うことが多くなります。そのプロセスは4年前後かかります。次に建物の詳細設計を行い、当局から開発許可/建築許可をもらうのに1年。その時点で図面売りの販売を開始し、約半年から1年で一定目標の販売契約を締結、そこから掘削が始まり、3-4年の工事が始まるわけです。これを全部足すと土地取得から完成して引き渡すまで10年前後かかる長い事業なのです。
このスキームの問題は図面売りのタイミングです。買い手は4-5年後に出来る建物にコミットするのです。2割程度の預託金も払います。しかし5年後に起きるであろう社会変化は誰にも想像できません。例えば金利。コロナの初期は地を這うような金利だったのが今では5%を超えます。また政府のルールも変わります。外国人の不動産購入はますます制約が厳しくなりました。投資用で空き家にすると空き家税をがっぽり取られます。外国人取得の税もあります。つまり買い手にすれば想定外のルール変更が次々と起きるため、「そんなはずじゃなかった」となるのです。事実、建物が完成して、引き渡し可能になっても買い手が支払いが出来ないケースが続出しています。
これは売り手のデベロッパーも困るのです。理由は一度結んだ売買契約は双方の合意がないと契約解除できないのです。普通、デベは契約解除には簡単には応じないでしょう。つまり、我慢大会がはじまります。
ではデベロッパーの方の問題点をみます。販売開始時点の不動産市況と建設物価をベースに図面売りをします。販売価格の決定は土地代、設計費、建築費、ソフトコスト、金利などを計算し、利益を上乗せして決まります。が、多くは4年もの間にインフレが加速し、建築費が5割程度上がってしまい、それが吸収できないのです。おまけに普通は銀行借り入れですが、借入金利はどんなに好条件でも6%近くになっているはずです。土地取得代金や設計費、工事コストが積み上がる間の金利だけでも月に数千万円から億単位に膨れ上がり、当初の計画とは大きく相違してきています。
また建築物のデザインがどんどん複雑化し、役所も細かいところまで介入するため、建設会社の能力や設計の瑕疵が生じてしまい、現場で「あれ?」ということが起きてしまうのです。この結果、デベロッパーは既に完成の4-5年前に確定している売り上げに対してコストが大幅に上昇、やればやるほど赤字が積みあがる、という事態が生じてしまうのです。
既にトロントでは街のど真ん中の80階をこえる開発がとん挫していますが、理由は全く同じで倒産した際、売り上げに対してコストが既に2倍に膨れ上がる計算でした。
問題はデベが苦境になると住宅供給が激減する点です。カナダは移民が年間50万人あることもあり、買い替え需要を含め、潜在的住宅需要は50万戸/年ほどあるとされます。一方、供給側の能力は年間28万戸前後です。つまり、全く足りないのです。そこに持ってきて、高金利、高騰する工事費でデベが青色吐息となればどうなるか、誰でも想像できるでしょう。既存の中古住宅価格が暴騰するリスクです。
カナダ中銀は金利を上げ続け、インフレ退治を積極的に行いました。確かにそれは収まってきています。一方、その波動で今後、とんでもない住宅価格の高騰の可能性という副作用を受け入れなくてはいけないのです。このシナリオはアメリカではもっと強く出ています。住宅価格の指標であるケースシラー住宅指数の10月度分が昨日発表になりましたが、最高値です。金利が上がると住宅価格が下がるというシナリオは全く逆になったのです。
私がカナダの不動産はずっと「買い」と申し上げているのはこういう背景があるからなのです。自分で不動産開発事業をやりながらカナダでは住宅産業のサステナビリティが失われている、と思わざるを得ないのが当地の不動産の現状であります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年11月30日の記事より転載させていただきました。