宝くじ高額当選しても仕事をやめてはいけない

黒坂岳央です。

年末ジャンボ宝くじが話題の時期になった。西銀座チャンスセンターはいつもこの時期に宝くじを求める人が行列を作っている。

宝くじの高額当選者の取る行動は日本、米国などでも共通している。それは「仕事をやめてしまうこと」。お金さえあれば嫌な上司のいる会社なんて絶対に行きたくない!当選してやめてやる!という一縷の望みをかけて宝くじを買い続け、そして運良く当たりくじを引く人はいる。

だがその末路は大体悲劇的だ。そう、高額当選者はスカンピンで破綻するケースは意外なほど多い。そうなってしまう理由を考察したい。

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お金を持ち続ける力

お金については、「稼ぐ力」「増やす力」ばかりが取り沙汰されがちだ。稼ぐ力なら、高度な専門職で高収入を得るとか起業して稼ぐ、増やす力は資産運用で増やすという話である。だが、見過ごされがちなのが「持ち続ける力」である。そう、お金を稼いでもすぐに手放す人は意外なほど多い。それもあぶく銭のように手にしたお金ほど、あっさりと手放してしまう。

筆者は昔、友達にパチンコマニアの人がいた。彼はパチンコで勝ったり負けたりしていたが、勝った時には自分を含め周囲の人によくごちそうしてくれた。「今日は勝ったら遠慮せず食べてくれ」と。気前のよさはありがたいのだが、彼がパチンコで蓄財できたという話は聞かない。大勝したらその分をすぐにぱーっと使ってしまうからだ。

それを考えると宝くじの高額当選ほどあぶく銭感のあるものはない。やったことは宝くじを買う、それだけである。何の苦労も獲得プロセスの時間もかけてないから、パーッと派手に適当に使ってしまう。

お金を稼いだらそれを持ち続ける力は「ファイナンススキル」の1つとして確実に存在すると思っている。宝くじ高額当選者の多くはサラリーマンや主婦だ。決してバカにするわけではないが、日々キャッシュフローを計算して経営する社長や、資金管理を怠れば即退場という厳しい世界を生きる金融トレーダーと比べると、どうしてもお金のスキルは及ばないと考えるのが普通の発想である。そんな普通の人があぶく銭を手にしてしまったらあっという間に使い切ってしまうだろう。

減り続ける恐怖に耐えられない

人は資産がどれだけあっても、ひたすら減り続ける苦痛には耐えられない生き物である。

宝くじ高額当選で大金を手にして仕事をやめてしまえば、息をするだけで口座残高は減り続けていく。これはあたかも密室で酸素残量が減り続けるようなインジケーターのようなものだ。残高が0になれば現状の生活は叶わなくなる。それなのに収入源は一切ない。これは想像するだけで息の詰まりそうな生活である。

よく聞く「莫大な資産運用の運用収益で生活する人は質素な生活をしている」という話もこれと似ている。ビジネスでその気になればいつでも稼げるという人と違って、支出はシンプルに未来の収益を削ることに直結すると理解している上、羽振りよく目立っても何もメリットがないので必然的に質素な生活になると思っている。

宝くじ高額当選しても一生資産が減り続ける苦痛に耐えられるだけの胆力のある人はめったにいない。長生きしてしまうと途中で資金が尽きるリスクが増加する。人生は生きている時間が価値のすべてなのに、長生きするリスクを恐れるという矛盾を抱えることになる。

宝くじ高額当選になったら選択肢は2つだ。現状の仕事を続けるか、もしくはゆるい働き方で自営業や投資家になるという選択である。小さくリスクを取り、虎の子を減らさない生き方なら息苦しさはないだろう。たとえ1億円という高額当選をしてもインフレや円の減価が続けば、思ったほど使えなくなってしまうリスクはあるのでそうした不確実性を乗り越えるスキルが活きるのではないだろうか。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。