「親が子供に希望しない職業」から分かること

黒坂岳央です。

「親が子供に就いてほしくない職業ランキング」はあちこちのメディアで意識調査、結果報告をしている。比較的最近のものはARINA株式会社が発表したのがこちら。

あらゆる調査結果でも共通して敬遠されているのが「YouTuber」「芸能人」「政治家」が多い。これはいわゆる人前に出て個性や才能を打ち出す「タレント業」という点で共通している。

そこから見えてくる「親が子に思う心理」に問題を感じる。

Choreograph/iStock

タレント業は人気がない?

詳しくは調査結果を参照頂きたいのだが、タレント業はとにかく親が敬遠する理由は概ね次のようなものがあげられる。

「才能がないと成功できない」
「収入が安定しない」
「選手生命が短い」
「批判が多そう」

こうした理由がある。こうした理由を見て敬遠する気持ちは分からなくはないが、親の心理の問題が見えてくる。

タレント業は親から人気がないのはなぜか?理由を一言でいうと「よくわからないから」である。労働力調査によると、我が国の全就業者数の内、就業者の89.9%は雇用者で、ざっくり残りの10%は経営者やフリーランス、投資家である(2022年)。

つまり圧倒的大多数が雇われて働いた経験しかない。経営者やフリーランスはなんとなくイメージがついても、その中でもタレント業となると遠い世界の出来事に感じられるだろう。それ故に愛する我が子の将来を不安に感じてしまうのだ。

タレント業についていえば、突出して大成功した事例以外は存在が見えなかったりする。たとえばYouTuberについていえば、一般的に多く認知されている人はHIKAKINさんくらいであり、他のYouTuberは「顔を見たことある」という程度でしかなく、実力や所得水準の違いなんてファン以外はわからない。「YouTuberは広告収入が激減してオワコン」というニュースが地上波に出ていたりする。

だが、チャンネル登録者が数千人程度でも、自社の中古車を販売する集客に活用することで月収300万円以上稼ぎ出す人もおり、タレント業というのは外野から詳しい内情がまったく見えないのである。

サラリーマンと自営業者の認識の違い

自分はサラリーマンも自営業者も両方やってきた経験があるので、肌感覚で分かるのだが、お互いに価値観は水と油くらいまったく違うと感じる。以下はその違いを対比する目的で書かれ、どちらかの立場を下に見る意図は一切ない点に留意した上で読み進めていただきたい。

たとえば「リスク」についての考え方だが、サラリーマンは自営業者やタレント業の収入が不安定だとリスクに感じる事が多い。だが逆に自営業者の中には「サラリーマンは自分の体だけが資本。万が一、大病を患ったりスキルがないまま勤務先が倒産すれば、これまでのように働けず、たちまち困窮してしまう大変リスキーな立場。健康的に40年以上働き続けるフィジカルタフネスが前提の大変難しい職業」などと考えていたりする人もいる。

また、批判についていえばタレント業なら誹謗中傷をブロックしたり、合わない人とは付き合わないなど「付き合う相手は自分で選ぶ」という戦略を取ることができる。一方でサラリーマンの場合は上司や同僚、取引先など身近な人の人間性に大きな問題があっても基本的に逃げ場はない。そういう意味でタレント業から見れば「嫌な人をブロックできないサラリーマンの方がよほど辛い」と思う人もいる。

最後に選手生命が短いという点についていえば、サラリーマンでも本質的には事情はあまり変わらない。今あるスキルが10年後、20年後にニーズがあるかは誰にもわからないのだ。

たとえば一部の事務職やクリエイティブ職についてはAIの台頭が凄まじく、同じ作業の繰り返しやパターンに落とし込める作業から職が奪われている。現時点ではまだ経営層のAIスキルが高くない会社や、人的資本がAIの活用コストより安い現場では雇用が守られているが、10年後はわからない。

筆者はすでに、これまでフリーランスへ外注していたExcelのマクロ制作やウェブ制作の仕事のAIに切り替えたため、外注を一部やめた。これから同じことが進行していくだろう。

メインのタレント業がオワコン化しても、それまでの知名度を活かして講演活動とか出版、その他何らかの活動を続けて生き残る人はいくらでもいる。たとえばヒーロー物の主役を務めたタレントは、年老いて俳優業を退いた後は自営のビジネスで飲食業やファンサービスで食いつなぐ人もいる。

個人的には親が子供の職業に口を出すことはしないほうがいいと思っている。YouTuberになりたい!と子供が言い出したら「将来ではなく、チャンネルを作って今すぐやってみなさい」とむしろ手伝えばいいと思っている。漠然とした憧れをいつまでも追いかけ、子供の若い時間をムダに消耗させるより、今すぐやってみて合う、合わないと本人に判断させる。もしかしたら隠れた才能があるかもしれない。昔の価値観で令和の職業の可能性を親が潰してしまうことは良くないと思っている。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。