岸田総理が攻勢に出た
岸田総理「二次避難は行政で手配し避難者の方に負担はありません」
岸田総理大臣からSNSで「二次避難について誤解を招きかねない、事実に基づかない投稿が散見されていますが、二次避難先は行政で手配しており、避難者の方にご負担いただくことはありません。」「その他の誤情報も散見されます。影響の大きいアカウントだから正しいとは限りません。公共機関等からの情報の確認をお願いします。」「悪質な虚偽情報は決して許されません。」と注意喚起されました。
岸田総理のSNS発信ではこれまで能登半島地震の政府の初動の動きや予備費に関する解説など、1人フェイクバスターズと言えるような動きがありましたが、ここに来てさらに加速した感があります。
石川県の馳知事からも追加情報が投稿されています。
二次避難については岸田総理の投稿以前に以下等で公表或いは報道されています。
“まずは旅館やホテル2次避難所で命を守って” 石川県 馳知事 | NHK | 令和6年能登半島地震
【能登半島地震】2次避難先となる市内宿泊施設の提供 – 飛騨市公式ウェブサイト
また、被災者に対する支援金についても数十の支援策があり、支援金支給についても最大500万円の災害弔慰金、災害障害見舞金の支給や、住宅が全壊するなどした世帯に最大300万円の被災者生活再建支援金の支給などが用意されています。
参考:富山県/令和6年能登半島地震による被災者支援パッケージ
ラサール石井の二次避難に避難者の費用負担が生じるというデマ
岸田総理の投稿には、「そういうデマ」が拡散されていたという背景があります。
最も拡散されていたものとして芸人のラサール石井氏によるこの投稿。
「被災者にそんな金あるか。だったらあんたが金を出して、旅館やホテルを借り上げ避難民を移動させろ。五輪誘致のアルバム作りみたいに、馳浩石川知事に官房機密費から金出してやらせろ。」といった内容でした。
本記事投稿時点で7000リポスト、500万ビューを超えた拡散が為されてコミュニティーノートが付いていますが、未だに削除・訂正する素振りは有りません。返信欄や引用投稿はラサール氏を批判或いは正確な事実関係を書くものが沢山あります。
あろうことか、東スポWEBではラサール氏の投稿をそのまま取り上げ、二次避難者には費用負担が発生しないという事実を書かずに記事化していました。
⇒ラサール石井 被災者へホテル移動呼びかけた岸田首相に激怒「そんな金あるか」 2024年1月12日 22:11 東スポWEB
これ以外にも二次避難に関する事実と異なる認識を生む投稿はありますが、コミュニティーノートが付いているか、ほとんど読まれてないので現実への影響はほぼ無視できるのではないかと思われます。
私たちに求められているのは、正確な事実を伝える人や、必要な行動の意義を説明し有益な認識・知見を提供している人の発信を拡散することで、下らない人の言説をわざわざ拡散する拡声器にならないようにしたいと思います。
被災者・避難者に誤情報・誤認識が広がると命と健康の危険
ラサール氏のような投稿を避難者が見てしまい、本来は二次非難が望ましい場合でもためらってしまったことで、心身の健康に影響が出たらどうするのか。
人の命と心身の健康の問題になるということ。
また、「政府・行政は何もしてくれない」という絶望・諦めが生まれ、実際には用意されている支援メニューに気づかない人が出てくる危険もあります。
福島第一原発事故に関する流言や仄めかし報道等による情報災害・風評加害とその手法を分析した【「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か】の著者である林智裕 氏は以下指摘しています。
「攻勢」に出るようになった政府自治体:デマ情報撃退の情報発信強化
従来の政府・(地方)行政は、デマや風評加害が発生していても「国民・住民の皆さんに誤解が生じないよう正確な情報の発信に努めていく」といった態度であり、発信源に対して攻勢に出る、ということには及び腰であることが通常でした。
今回の岸田総理の動きは、発信者の名指しをしないものの、具体的なデマに関して直接的に注意喚起をするなど「攻勢」に出たものと言えます。
実は、こうした動きは初めてではありません。
元首相5人が欧州委員会委員長に向けて脱原発に舵を切るよう呼び掛ける書簡の中で福島第一原発の事故に関して「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」という虚偽情報が書かれていた問題では、政府や各党・各議員が直接抗議しています。
「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か 282頁
すると、2月1日には山口壮環境相が事実上の反論書簡を5人に送付したことが報じられ(「差別偏見を助長し『適切でない』 首相経験者5人所管に環境相」)、翌2日には自民党の高市早苗政調会長が記者会見で抗議を表明し、岸田文雄総理大臣も国会での日本維新の会の足立康史議員の質問に答える形で「いわれのない差別や偏見を助長することが懸念されるものであり、適切ではない」と答えた
行政はこれまで、こうした問題に「風評」とは言っても「偏見」「差別」と表現したことはなかった。これらの言葉を首相が選んだ意味は、あまりにも大きいと言えるだろう。
このような大きな流れが生まれたことで、当事者である福島県もようやく沈黙を破った。
翌日の3日に福島県の内堀雅雄県知事は、「がんと被爆(ひばく)の関連が認められない」として『科学的知見に基づき、客観的な発信をお願いする』と文書で5人に要請した
最近では福島県議会が、”Fukushima Water”の記事見出し問題に関して、当初は「国や東電には正確な情報の発信に努めるよう求める」としていたものが、報道機関の側に対して「県として対応を検討する」という答弁がありました。
多くの被災者、住民の犠牲と各所の賢明な活動の末に、近時の政府行政が誤情報への対応・メッセージを「強化」したのだと考えると、感慨深いものがあります。
以上
編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年1月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。