岸田氏が岸田派の解散を検討すると述べました。自身は既に岸田派会長から降りているにもかかわらず、自分で岸田派解散をにおわすというのは結局、会長を降りても影響力を持ち続けているわけです。会長を辞めた理由が特捜部の囲い込みが始まった中で世間一般向けに耳障りをよくして要領のよさを見せつけたわけです。今般、同会派の会計責任者が立件される方向と報じられていますが、当然ながら岸田氏はそのリスクを事前に嗅ぎ取っていたのでしょう。嗅覚の良さを感じます。
さて、今日のタイトル「派閥解散は岸田氏の骨頂か、真骨頂か?」でありますが、これは国語の問題でもあります。骨頂とは「骨の頂き」ですから英語ではpinnacleが妥当だと思いますが、この言葉そのものに「至上」という意味があり、supremeが当たるのだと思います。その「至上」にしろ「史上」にしろ最高と最低があるわけで骨頂は「愚の骨頂」といったようにどちらかと言えば悪い方を、真骨頂と言えばよい方を指し示す言葉とされます。
つまり今日のタイトルをつけた含みとは派閥解散を検討するのは岸田氏にとって良い結果、つまり自身の支持率が上昇し、少なくとも9月の自民党総裁選までは走り切り、あわよくばもう一期やる土壌を作るのか、最悪のケースとしては自民党が烏合の衆となり、収拾がつかなくなる結果をもたらすのか、であります。
岸田派が仮に解散を決定すれば安倍派もその方向に走る可能性は高く、事実、既にメディアでは安倍派も解散を検討か、と報じています。今回立件されることがその引き金だとすれば二階派も当然、解散圧力は高まるでしょう。実際、二階氏の年齢を考えればあと何年やるのか、という話で早かれ遅かれ「ドン」は降りざるを得ないとみています。
残るは麻生派と茂木派ですが、岸田派、安倍派、二階派が解散すれば自民党幹事長である茂木氏が解散しない訳に行かなくなります。とすれば残りは麻生派になり、まさか自分だけ派閥を維持するとは言えなくなる、というシナリオは描けます。
岸田氏は記者会見で笑みを浮かべ、 首相周辺は『今まで見たことのない、自信のある表情だった』と話した」(産経)とあります。ならば岸田氏は策士なのかもしれません。岸田氏の支持率はここにきて下げ止まり、一部では上向きになる動きを見せています。理由は能登半島地震の対応が良かったことが上げられています。一方で、昨年末から安倍派を中心に特捜部の捜査がはいり、火の粉が自身に向かなかったことをうまく利用し、更に国民の同意を得るために先手で派閥解散検討を発表するわけです。これは今までの「押し込まれて最後、そうせざるを得なかった」という動きとは明らかに違います。
さて、愚の骨頂になるか、真骨頂になるかは今後の展開次第ですが、仮に自民党から派閥が無くなるとします。問題はこれだけの大所帯で派閥がないことが起こりうるか、という疑問です。これは日本人論的な見地からの疑問です。日本人はグループ化を非常に好み、サル山型の組織を生み出すのが得手なのです。
いみじくも共産党の書記長に選出された田村智子氏は「…共産党のいいところだ。派閥がない。分派がない」と述べています。所帯が小さく、一つの明白なグリップ、例えば共産党のように思想的ブレが少ない場合には分派する流れになりにくいかもしれません。かつてのように原理主義が跋扈するような時代であれば別ですが、今の共産党にそんなパワーはありません。寄り添い所帯のようなものです。
個人的には自民党が烏合の衆になることはあり得ないと考えています。なぜなら自民党議員の思想は右から中道までかなり幅広いこと、そもそも大臣になりたいという野望をもった議員が多いことがあります。故にズルをして捕まる輩が後を絶たないのです。そこまでしてでも肩書が欲しい、それが自民党議員の傾向にはみられます。自民党=閣僚への道の確率が高いわけでそれこそ、甲子園に行ける高校とか駅伝に出られる大学を選ぶのと同じ趣旨すら起こり得るのです。そうなったらどこを向いた政治かわからないですね。
自民党から派閥をとるのは焼き鳥から串を抜くのと同じなのです。するともも肉もハツもタンもつくねも一緒になるのです。そんなの美しくないですよね。政策を考え、意を共にする強さはやはり必要になるでしょう。とすればまた串刺しの派閥はどこかで復活するだろうとみた方がよさそうです。とはいえ、当面は自民党の議員は岸田氏の策略に翻弄されるのかもしれません。岸田氏は「うっしっし」なのかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年1月19日の記事より転載させていただきました。