自分の頭で考えるから失敗する

黒坂岳央です。

「人にばっかり頼らず、自分の頭で考えろ」

こうした意見をよく見る。確かに自信がなく、すべての決断、判断を他人任せで自分でまったく考えない人がいるのは事実だ。そういう人ほど、他人の判断ミスに怒り出し「どう責任取ってくれる!」といったりする。基本は自分の頭で考えるべきだし、それで失敗しても後学となる経験が蓄積するのでまったくのムダにはならないはずだ。

しかし、すべての局面が自分の頭で考えていいことばかりではない。場合によっては自分で考えてはいけない時もあると思っている。

metamorworks/iStock

 

余裕がない時

1つ目は心や時間に余裕がないタイミングである。そうした時、人は極端に思考力が落ち、しばしば誤った判断をしてしまいがちだ。

その最大の特徴に「目先の苦痛を取り除くために、長期的な利益を放り出す」というものがある。たとえば新卒で入ったばかりの会社の仕事に、プレッシャーを感じている場合などである。最初はどんな仕事でも慣れていないので心理的負担が大きいものだ。当然、誰しも余裕がなくなってしまう。

そうした局面で自分の頭であれこれ悩みだすと「目先の苦しいこの仕事をやめてから改めて今後の進路を考えよう」といった決断をやりがちだ。もちろん、それがうまくワークすることはある一方、勇み足で転職して待遇面で不利になり、「せめて仕事に慣れて余裕を得たタイミングで決断すればよかった」と後悔することもあるだろう。余裕がなければ客観性を失う、客観性がなければ視野狭窄に陥り、長期的展望を無視して短期的で感情的な判断を優先させてしまう。

現時点で精神的に余裕がない場合、自分の頭であれこれ考えずに時には第3者である他人のアドバイスを受けることも大事だろう。または「今は自己判断してはいけないタイミングだ」と精神的余裕を得るまで結論を保留にする。嵐が過ぎ去った後なら「自分は小さなことで思い悩んでいたんだな」と針小棒大に考えていた自分を客観視できるのではないだろうか。

初心者の時

2つ目は初心者の段階である。この段階で無理に自分の頭で考えてもろくな結果を生み出さない。

茶道や武道の修行のプロセスには「守・破・離」と呼ばれる3つの段階がある。

「守」は、師の教えや型を確実に身につける段階。
「破」は、他の流派の良いところも取り入れて発展させる段階。
「離」は、独自に新しい価値を確立させる段階。

初心者とはここでいう「守」の段階である。この段階で自分の頭で考えるとほとんどの技能の獲得は失敗する。理由は自己流に走ると「やるべきこと、重要度が高いこと」ではなく「楽にできそうなこと。やりたいこと」ばかりが偏重的になり、その上誤った解釈で間違った型を反復で訓練してしまうことになるからだ。

自分自身、新たな技能を身につける時、たとえば作ったことがない料理に挑戦する時は自己流ではなく、まずはレシピ通りに徹底して何度も繰り返して作る。

「ここでこの調味料を入れなくてもいいのでは?」「下ごしらえを省いても問題ないのでは?」刹那的に湧いてきた疑問を押し込め、レシピなしで作れるようになり、味も安定化するまで自己流は混ぜない。初心者の段階を抜け出した後に「この工程はまるごとカットしてみよう」「砂糖ではなく還元麦芽糖でどのくらい結果が変わるかな?」といろいろ試してみる。

いきなり勝手にアレンジを加えると料理は失敗し、「自分にとってこのレシピは好みではない」と将来、発展する可能性をまるごと切り捨てることになってしまうのだ。

自分の頭で考えろ、という提案は自分の頭で考えてはいけない過程を経たステージからの主張であることを忘れてはいけない。人間には感情があり、多くのバイアスを受ける。何もかもすべてを自分の頭で考えてベストプラクティスを出し続けられるほど、多くの人に論理的な振る舞いをする再現性がない。なら「この局面では自分の頭では考えてはいけない」とルールを理解しておいた方がうまくワークすることが多いと思っている。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。