海外の不動産の値段が高い訳:中国の不動産を笑えない西側諸国

東京のマンションの平均価格が億円を超える時代になっていますが、海外主要都市の不動産ははるかに高く、昨年の高金利下でもアメリカにしろカナダにしろしっかり価格上昇しています。私も価格は上がり続けると申し上げてきましたが、そのあたりのカラクリを少しご説明します。

不動産開発のコストにはいくつかの要素があります。

  1. 土地取得価格
  2. 土地用途変更及び開発および建築許認可取得
  3. 建築工事
  4. ソフトコスト(開発期の金利負担やマーケティング、管理費など)

それぞれのポイントに於いて海外、特にカナダのケースで見れば日本人が腰を抜かすような状況が生じています。そしてそれらコストが全て最終購入者に転嫁され、購入者はそれを喜んで払う、そういう仕組みなのです。だから不動産は高いし、上がり続けるのです。

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まず土地取得ですが例えばマンションを建てるのにふさわしい一団の土地となると極めて取得が困難になりました。かつては空き地とか廃墟同然の建物、更には古くなったタワー型駐車場といった潜在開発用途物件があったのですが、今ではそれらは開発し尽くしてしまったので現在普通に使っている物件を買収するしかないのです。

例えばアパートなら大家は通常一社なので開発はしやすいですね。では分譲物件ならどうするのでしょうか?最近知人が住む分譲物件に突如「For Sale」看板が。あれっと思い、本人に聞くと知らなったと。看板には管理組合解散を条件とした販売物件となっています。管理組合が交渉をまとめ買い手が一定金額を払うことで分譲全戸を強制売却させるのでしょう。感覚としては上場企業におけるTOBのような感じでしょうか?ごね得もしにくい気がします。ただ、当然、プレミアムを乗せる必要があります。

2番目の土地用途変更です。これは多くの開発が高層化し、50-60階建てになっていますが、それは案件ごとに土地の用途変更(Rezoning)をすることで可能になります。こちらではごく普通の手法で私も2度やっています。但し、時間が果てしなくかかるのです。私が1回目にやった時が5年、2度目が2年でした。私が住む近所の土地用途変更は現状、軒並み4年越えで更地のまま放置されています。また通常、リゾーニングでは例えば50階までしかOKにならなくてもその後、役所とディールしてバーター取引をすれば3-4階分増やしてもらえる公算があります。交渉力次第ですが、開発諸条件を役所に有利な形で合意する代わりに容積を増やしてもらうのです。デベロッパーは当然コスト増になりますが、売り上げも増えるので都合がよいわけです。

3番目の建築工事は相当の曲者と言ってよいでしょう。なぜなら下請業者が協力しないからです。特に最近、デベロッパーの業者への支払いが悪いため、業者が前金を要求します。工事業者も契約金額で収まるケースは100%なく、設計変更と称して利益率の高い変更契約(Change Order)を増やしていきます。この利益率は私が日本のゼネコンの現場にいた時は20%-25%で凄いと思ったのにこちらは100%かそれ以上です。ヤクザでもそこまでしないだろうという金額。それをネゴろうとすれば「じゃあ、やらないぜ。それでもいいのかい?」と言われます。

また、サボタージュも酷く、業者が来ない、部品がないことを理由に遅延が続くといったことが頻繁に起きます。理由は下請け業者がデベロッパーを取捨選択しているために嫌なデベの仕事はやらないのです。そうすると私のように弱小のデベだと餅まきじゃありませんが、前金勝負するしかないのです。

最後にソフトコストです。これはもう金利が全てと言ってよいでしょう。銀行は住宅ならプリセールで6割ぐらい売れないと貸しません。その為、デベは土地取得代金から銀行による資金調達まではつなぎ融資を得る必要があります。私も一時期つなぎ融資団(貸す方)に所属していましたが、通常金利は銀行金利に6-8%の上乗せなので今なら12%以上です。銀行から借りれると金利はプライムレートに1%乗せたぐらいで調達できます。(カナダの場合はBankers Acceptanceという銀行振出手形を介した特殊な調達手法でコストを下げます。)

ここまでお読みになったらお分かりの通り、不動産開発はいくらあっても足りない金食い虫の事業だけれど今やらなければ一生出来ないという世界なのです。正直、資金繰り頼みで事故もなく、トラブルもなければいいのですが、何かあった時プロジェクトは吹っ飛びます。

カナダではトロントで85階建ての建物が途中で吹っ飛びました。バンクーバーでも銀行が100億円近く融資した物件がとん挫し、訴訟問題になっています。更にバンクーバーで最大のデベロッパーが業者などとの問題で訴訟を20以上抱えており、先行きが不安視されています。

ところでドイツで商業不動産の市況が2023年通年で10%、10-12月期だけで見れば13%下落したと報じられています。これはオフィスがガラガラなので値段を下げざるを得ないという意味なのですが、こうなるとデベは困るのです。銀行にお金を返せないわけです。WeWorkなどは潰れた者の強みで今になって追い出された創業者が安値で買い戻す画策をしています。

我々は中国の不動産を笑いますが、いやいや西側諸国も散々なのです。それでもどうにか体裁を保っているのは住宅市況は悪くなく、今年後半から更に盛り返していくことが期待されるからです。理由は金利低下により過去2年ほど滞留していた住宅購入者層が一気に買いに走るからです。

ということは私を含めデベロッパーはここは歯を食いしばって頑張るしかないわけです。いつも開発をやっているとその最終段階の時に思うことがあります。「トンネルの向こうには資金需要からの解放がある」と。そして「こんな仕事、だれが好き好んでやるのだろう」と思うのです。

海外、特に先進国の都市圏で手持ち資金でデベの仕事をやっている日本人はそう多くはないでしょう。たぶん、世界合わせて50人から100人程度かと思います。また、日本の大手建築会社が海外進出を目指していますが、彼らあらゆるスタンダードの違いに驚くでしょう。その点では現地のデベと協業が良いと思います。かつて、ゼネコンに在籍していた際、NYのマンハッタンで超高層を建てることになった時もとてもじゃないけれど日本のゼネコンが管理できるような環境(=マフィア対策)と仕組みは存在せず、結局、地場の大手と組んだプロジェクトになりました。それぐらい特殊な世界だと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年3月4日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。