アルゼンチン・ミレイ政権下でのBRICS加盟拒否とその影響

上川外相とディアナ・モンディーノ外相 モンディーノ外相Xより

3月23日付「NIKKEI ASIA」紙にアルゼンチン政府のモンディーノ外相が東京を公式訪問した際に会見した内容が掲載された。

Argentina won't push companies to buy from China: top diplomat
Little to gain from dealing with countries that aren't liberal democracies, Mondino says

モンディーノ外相はミレイ氏が大統領に選出される前から大統領に成った暁には外相として就任してもらう意向を当人に伝えていた。彼女の政界への進出は初めてである。元々、彼女はミレイ氏と同様に経済学者である。

BRICSに加盟しないことは選挙公約であった

この会見の中でも明らかにしているように、ミレイ大統領政権は企業同士の自由貿易を柱にして行く意向で、これまでのキルチネール派政権の政治的に規制された貿易体制から脱出することを公約していた。

特に、中国やロシアといった民主政治の行われていない国々との貿易取引は極力避ける意向を表明して来た。それはミレイ大統領が選挙戦中から明にしていたことで、それを彼女が外交で具体化している。

更に、BRICSにイランが加盟するので、加盟しないことに多くの国民から支持を得ることをミレイ氏は選挙前から良く知っていた。

前政権まではBRICSに加盟する意向であった

アルゼンチンの正義党のキルチネール派前政権はBRICSへの加盟を望み、今年1月から議長国であるロシアでサウジアラビア、エジプト、エチオピア、アラブ首長国連邦、イランそしてアルゼンチンが新たに加盟国として加わる予定になっていた。アルゼンチンの加盟を強く後押ししたのはブラジルのルラ大統領であった。

キルチネール派は正義党(別名ペロン党)の中でも左派色が強く、ネストル・キルチーネール、クリスチナ・フェルナンデス・キルチネール、アルベルト・フェルナデスの3人続いたキルチネール派の大統領は常にロシアや中国との関係を強化したいという方向で進んでいた。特に、クリスチナ・フェルナンデス・キルチネール氏の政権時には彼女はロシアと中国への訪問は繰り返したが、米国への訪問は一度もしなかったという異例の外交を展開していた。

世界規模でコロナの感染が拡大していた時、アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領は当初ファイザーとワクチン入手の交渉をしていた。ところが、クリスチナ・フェルナンデス・キルチネール副大統領はその交渉を反故にさせ、ロシアからスプートニクワクチンを仕入れさせたという経緯もあった。彼女が大統領だった時からそうであったが、彼女は理性ではなく感情(米国嫌い)で政治をする傾向にあった。

BRICSに加盟しない理由

昨年11月の大統領決戦投票で欧米との取引の強化を望むハビエル・ミレイ氏が勝利したことによりBRICSへの加盟が危ぶまれていた。

そんな中、アルゼンチンの新政府で外相の就任が予定されていたディアナ・モンディノ氏が昨年11月30日、BRICSに参加しないことを明らかにしたのである。それが同日、アルゼンチンの各紙で報じられた。

彼女は「我々は(BRICS加盟から)後戻りするのではない。なぜなら、それは(議会で)まだ承認を得てはいなかったからだ」「BRICSに参加することは相対的に有利にはならない」と述べた。ミレイ氏は「共産主義の国とは取引をしない」という意向を大統領選挙戦の当初から表明していた。ミレイ氏は寧ろ米国、イスラエル、EUとの関係強化に動くことを表明して来た。

米国がアルゼンチンに接近開始

ラテンアメリカで中国の影響力拡大しているのを前に、米国は今回のミレイ氏が大統領に就任したのを絶好の機会と捉えた。ミレイ氏が私的に米国を昨年11月下旬に訪問した際にも、バイデン政権下の国家安全保障担当の大統領補佐官ジェイク・サリバン氏がミレイ氏をホワイトハウスに招いて会談を持つという異例の出来事もあった。この訪問はアルゼンチンの報道機関も強い関心を持ち高く評価した。これは米国がアルゼンチンとの関係回復に強い関心を示しているという証拠でもあった。

アルベルト・フェルナデス前大統領の前の右派系マウリシオ・マクリ元大統領は、当時の米国トランプ大統領と強い絆を結んだ。が、マクリ氏は二期目の選挙でアルベルト・フェルナデス氏に敗れた。それで同氏はロシアと中国と関係を復活させた。それが理由で米国はアルゼンチンとの関係が薄くなったという経緯があった。

しかし、ミレイ氏が大統領に就任したということで、米国はアルゼンチンとの関係強化を急いでいるのである。何しろ、アルゼンチンと国境を接しているボリビア、チリ、ブラジルが左派系の政権にある中で、アルゼンチンが右派系に復活するというのは米国にとってジオポリポリティクス面において非常に重要なのである。しかも、ミレイ大統領は自国の通貨を米ドル化させる意向を持っていることから米国にとっても二重の関心ある国なのである。

BRICSに加盟しないという決定が高く評価されている

また、BRICSにアルゼンチンが加盟するということに国民の間でも反対の意向が強くあった。というのも、1994年にブエノスアイレスでイスラエル相合協会(AMIA)がテロ爆破され85人が死亡、200人以上が負傷するという事件があった。その被害にあった人の多くはユダヤ人である。このテロ事件に当時のイラン政府の閣僚が関係していたということが明らかにされている。

それ以来、多くの国民の間ではイランへの敵対意識が強まっている。にも拘らず、当時のクリスチーナ・フェルナデス・キルチネール大統領はイランがアルゼンチンからの輸入取引量を増やすということを条件に、当時のアルゼンチン政府はこの事件にイラン政府が絡んでいたという真相を隠蔽した。

だから、アルゼンチンが加盟しようとしていたBRICSの新加盟国の中にイランも加わっているということにアルゼンチンの政界や国民、特にユダヤ人の間では不信感を表明していた。同国にはおよそ22万人のユダヤ人が在住している。ということから、ミレイ大統領政権がBRICS加盟への拒否するという決定は国内でも高い評価を得ている。