コロナワクチン接種後にがん死亡は増えているのか?

小島 勢二

crazydiva/iStock

ロジスティック回帰分析で求めた予測死亡数からの検討

コロナワクチン接種後のがんによる死亡数の変化については国民の関心も高い。国立感染症研究所の発表によれば、日本では、2022年にみられたがんによる超過死亡は、2023年になると一転して過小死亡となっている。

筆者は、これまで、人口動態統計に公表された粗死亡数及び年齢調整死亡数を用いて、2016年から2019年のがん死亡数の平均と2020年、2021年、2022年のがん死亡数の平均との差から、がんによる超過死亡を検討した。その結果、特定のがんにおいて、ワクチン接種開始後に超過死亡が発生していることが判明した。

コロナワクチンの接種により、日本のがん死亡は増加したか?

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今回は、ロジスティック回帰分析で得られた予測死亡数から求めた各種がんの超過死亡を検討した結果を報告する。

Increased Age-Adjusted Cancer Mortality After the Third mRNA-Lipid Nanoparticle Vaccine Dose During the COVID-19 Pandemic in Japan

死亡率の評価は、高齢化の影響を排除するために年齢調整死亡率を用いて行った。予測死亡率と95%予測死亡区間は、パンデミック前の2010年から2019年までの死亡数からロジスティック回帰分析を使って求めた。

全がんを対象とした年齢調整死亡数は、2020年が345,248人、2021年が345,625人、2022年が344,114人であった。超過死亡数、超過死亡率は、2020年が-1,379人、-0.4%、2021年が3870人、1.1%、2022年が7,162人、2.1%であった。その結果、2021年の死亡率は、95%予測死亡区間を、2022年は99%予測死亡区間をも上回っており、超過死亡の存在が確認された(図1)。

図1 人口10万人あたりの全がんを対象にした年齢調整死亡率の推移
宜保美紀氏作図

表1には、全種類のがんに加え、個々のがんにおける2020年と2022年の年齢調整死亡数、超過死亡数、超過死亡率を示す。卵巣がん、白血病、前立腺がん、膵臓がんにおいて、2022年の死亡率は、95%予測死亡区間から逸脱していた。一方、乳がん、子宮がん、胃がん、肝がん、肺がんの死亡率は95%予測死亡区間内であった。

表1 パンデミック下における各種がんの年齢調整死亡数、超過死亡数、超過死亡率
宜保美紀氏作成

図2には、超過死亡がみられた卵巣がん、白血病、前立腺がん、膵臓がんの2010年から2022年までの年齢調整死亡率の経年的推移を示す。

卵巣がんの死亡率は、2019年までは低下傾向であったが、2020年から増加傾向に転じ、2021年、2022年には99%予測死亡区間を上回った。白血病、前立腺がんの年齢調整死亡率も2021年から上昇傾向に転じ、前立腺がんは2021年と2022年、白血病は2022年に95%予測死亡区間を上回った。一方、膵がんの年齢調整死亡率は、2010年から一貫して上昇しており、2020年には95%予測死亡区間を、2021年、2022年には99%予測死亡区間を上回った。

図2 超過死亡がみられたがんにおける年齢調整死亡率の推移
宜保美紀氏作図

肺がん、胃がん、大腸・直腸がん、肝臓がんの年齢調整死亡率は、長期的に低下傾向であったが、2021年からは、95%予測範囲内であるが上昇傾向に転じている(図3)。

図3 例数が多いがんにおける年齢調整死亡率の推移
宜保美紀氏作図

乳がんの年齢調整死亡率は、2010年以降上昇傾向であったが、2020年と2021年は、一転して低下した。しかし、2022年には、95%予測範囲内ではあるが急激な上昇がみられた。死亡率を月毎に検討すると、2022年3月から上昇傾向に転じ、6月、8月は95%予測範囲内から逸脱した(図4)。

図4 乳がんにおける年齢調整死亡率の経年及び月毎の推移
宜保美紀氏作図

日本では多くのがん種において、年々、年齢調整死亡率は低下傾向であったが、コロナワクチンの接種が開始された2021年から上昇傾向に転じている。2012年以降、年齢調整死亡率が年々上昇していた膵がんにおいてはさらに上昇し、2021年、2022年には99%予測範囲内を上回った。全がんとしても、2020年までの年齢調整死亡率は、予測範囲内であったが、2021年は95%の確率で、2022年には99%の確率で予測範囲を上回った。

コロナワクチン接種開始後の、わが国のがん死亡の動向が議論されているが、年齢調整死亡率に、厳密な統計学的解析を加えた結果、一部のがんの死亡率は上昇したと結論付けられる。