外国人がどうやって他国で生き抜くか?

私が日本で経営している賃貸住宅のうち、一部の物件は外国人のみになっています。日本の方を入れないのではなくて外国人が争うようにして契約するので結果としてそうなっただけの話です。なぜ外国人に人気があるのか、その一つには私のコミュニケーション能力はあると思います。ではそのコミュニケーションとは英語のチカラなのか、というと全然そうじゃないと思っています。

私は相手の方の出身国に基づく文化を理解しながら日本のやり方をやさしく教えますが、契約やハウスルールなどは国際スタンダードに近いものです。それを不動産屋を介さない直取引で行うので私が直接顧客と何度もやり取りして双方の理解が早く得られるからでしょう。

また多くの大家さんは賃借人の悩み相談に耳を傾けることはなく「それはできません!」と断ることが多いと思います。私はなぜ、困っているのかよく聞いたうえでケースバイケースで対応しているのです。

いろいろな修繕やミニ改築もするし、ネットがつながらないといえば見てあげます。つまり外国の人が日本で住んで困るであろうことを聞けるよろず相談所だからかもしれません。賃借人と食事することもあるし、賃借人皆さんとミートアップパーティーもしばしば開催しています。こんなことする大家は日本広しといえどもそんなにいないでしょう。

外国人が他国で住む行為は大陸ではごく当たり前だし、アメリカやカナダも移民国家なので民族グループができます。それはひとり、ふたりのチカラではどうにもならないけれど数集まれば大きな声になるという発想が背景にあります。ですが、まず、大きな声にする前にその国のことをよく理解しなくては何も始まらないのも事実です。

私が北米に着任した92年1月以降、カナダという国を理解するのに非常に苦労したと思います。理由の一つは体系的にカナダを学ぶ機会がなかったからだと思うのです。体系的とは国家の歴史や国民構成、政治や習慣、文化、経済基盤に国民性などあらゆる背景が作り出すものが国家のテイストなのですが、こんなことは誰も教えてくれないのです。

例えば紙幣の肖像なんていまだに誰だかわかりません。♬オーカナダ…♬で始まる国家だって今まで何百回と聞いたけれどその意味を吟味したことはありません。探求心がないといわれればそれまでですが、大半の人はそんなものでしょう。

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日経に興味深い記事を見つけました。ベルギーでは駐在員本人を除く帯同家族にフランス語かオランダ語の学習プログラムが強制され最終的にA2(仏検準2級相当)に合格しなくてはいけないというもの。18か月以内にその合格を得ることが駐在員家族に課されているようです。語学が合格すると次に50時間のベルギーの国を学ぶ講習があり、これを怠ると罰金が41万円相当が科されるそうです。

ものすごい強権であり、たぶん不評なのだろうと思いますが、ベルギーからすると「わが国で過ごすのに最低のハードルはクリアしてもらわないと困る」という自意識の高さがうかがえます。

欧州は中東などからの移民や難民などで各国苦労しています。難民を受け入れた国家にしてみれば難民が一日も早く生産性を上げ、その国家で経済的便益を生み出すようになってもらわねば困るというのが本音です。

カナダでも新移民にはESL(English as a Second Language)を通じた英語のクラスを無償で提供しており、国家として移民に対して一定の投資をしています。ドイツも職業訓練に相当税金を投入していると理解しています。そのためには必死になってその国に溶け込む努力をしてほしいというのが願いなのでしょう。

では日本にくる外国人向けは、といえば日本語教育支援プログラムがあります。そしてそれ以前にビザの種類により日本語能力試験のN3やN2を求められ、企業によっては独自にN1とかN2レベルを足切にしているところもあります。私が感じる限り、日本に住む外国人はそれなりに日本語を一生懸命勉強していると思います。理由は簡単で英語に逃げることができないのです。日本人は英語ができないので万国共通語に近い英語が役に立たず、やむを得ず日本語を勉強するのでしょう。

そんな日本では帰化した外国人が議員になるケースもちらほら出てきています。日経によると世田谷区議にウズベキスタン出身者、茨城県議にカナダ出身者、山形県庄内町議にはシリア生まれエジプト育ちの方がいらっしゃるそうです。そう聞くと日本も国際化してきていると思います。

そんな中、私は先のベルギーの取り組みにあった国を知る講義を50時間取得させるというプログラムが非常に魅力的だと思うのです。私はできれば日本学という分野を展開するところを支援したと思っています。明治大学にはそのような学部がありますね。外国人に日本を知ってもらうという教育は大なり小なり是非ともやっていただきたいと思うのです。

そして日本ブームとなっている今こそ、文化庁あたりが主体となってミニ日本発見ぐらいの小冊子を成田空港で配るとか、そのようなウェブサイトを提供するなどして啓蒙をすべきだと思うのです。

今後、否が応でも日本には様々な国の方が住むようになるでしょう。その時、埼玉県川口市のような失敗をしてはいけないのです。第一歩を間違えてはいけない、そう考えながらプランしていただきたいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年4月28日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。