あなたの「いいね」が問題に?最高裁からの警告(池上 天空)

弁護士 池上 天空

今年の2月、X(事件発生時点ではTwitter)で他人の投稿に「いいね」を押したことを違法として損害賠償請求を認容した令和4年10月の東京高裁の判決について、最高裁判所が高裁の判断を支持して上告を棄却する決定を出したことが話題になりました。

ここ数年は、名誉毀損に該当するような表現を含む他人の投稿をリポスト(かつてのリツイート)した場合に、その投稿のリツイートにより精神的苦痛を受けたとして損害賠償請求がなされて請求が認容される事例が複数発生しており、今回の最高裁の判断もその流れを踏襲したものといえます。

元々の書き込み自体の是非については各種裁判例に譲るとして、本稿ではいいねやリポストを巡る法的な問題について検討してみます。

普段から各種SNSを利用されている方には不要な説明かもしれませんが、法的判断について検討する前に、まず私のようなSNS音痴が確認すべきは、「そもそもリポストやいいねって何?」という点です。

X社のヘルプセンターによれば、いいねとは「小さなハートマークで表示され、ツイートに対する好意的な気持ちを示すために使われます」とのことです。これによれば、いいねボタンを押した人物は元の投稿に賛意を示しているということは間違いなさそうです。

また、リツイート(ここはリポストという記載に修正されていないようです)とは「フォロワーに公開して共有するツイート」であり、「X上で見つけたニュースや耳寄り情報を伝えるのに便利」なもののようです。いいねのように賛意を示しているとは限らない一方で、他人の投稿をみんなに共有するための機能といったところでしょうか。

いいねについては、元の投稿に賛意を示す機能ということで、元の投稿が名誉毀損等違法なものである場合には、いいねボタンを押す行為も違法性を帯びるという理屈で先の最高裁判決のような判断が下されています。

もちろん、最高裁判決のもととなった東京高裁の判決は、単にいいねボタンを押したことのみから違法性を認定したわけではなく、いいねを押した回数や従前にも侮辱的な行為がされていたこと、さらにはフォロワー数や当事者の社会的地位等まで考慮して違法性を認定しているため、一概にいいねが違法になるとは言い切れませんが(現にこの件も一審では違法性が認められていませんでした)、いいねによって一定の法的リスクが発生しうることは間違いありません。

また、リポストについても、他の投稿の内容をそのまま不特定多数の人物に伝達するという性格がある以上、名誉毀損等に当たる投稿をそのままリポストした場合、元の投稿と同様にリポスト行為についても違法との評価が下される可能性が高くなります。

現にこのような事例で損害賠償請求を認容する下級審判例がここ数年は相次いでいますし、最高裁も令和2年7月21日判決で、ある投稿について当時のリツイートをした人物が他人の権利を違法に侵害したという判断を下しています(こちらは損害賠償請求ではなく違法な投稿をした人物を特定するための「発信者情報開示請求」についての判決であることは留意が必要です)。

したがって、他人の投稿をいいねしたりリポストしたりするときは、まず元の投稿が違法なものでないかよく考えることが必要となります。

ただし、実際には「元の投稿が違法なものでないか」という判断は容易ではありません。この記事に直接記載できないような露骨な表現が用いられている場合はともかく、一つの投稿の違法性を一見しただけで違法性について判断するのは、弁護士でも困難な場合が多いです。

特に名誉毀損については、投稿した側の表現の自由という憲法上保障された権利をどう保護するかの視点も絡んで問題が複雑化するため、誰もが一見して違法適法を判断できるような分かりやすい基準を設けることはほぼ不可能と言ってよいでしょう。

そうすると、現時点では誰かを強く批判するような投稿や出所が確かでない情報を含む投稿については、いいねやリポストの類はなるべくしないという消極的な対応をとるしかなさそうです。せっかく多様な機能を持つSNSが発達して、20年前とは比べものにならないほど迅速に情報や意見の交換ができるようになったのに、このような対応をするのは何とも残念なお話ではあります。

ただ、数々の誹謗中傷の類が氾濫する現在のSNS上で、文字通りボタン一つ押すだけで自分も誰かを傷つけてしまって場合によっては、損害賠償請求を受けるといったリスクを負うのは到底おすすめできるものではありません。

池上 天空(弁護士、岡野法律事務所所属)
1990年生まれ。九州大学法学部および法科大学院を卒業後岡野法律事務所に入所。現在は岡野法律事務所熊本支店支店長。趣味はゴルフで、スコアが100を切る目標に向かって練習中。