日本がバブルで沸いていた89年6月4日に中国では民主化を叫ぶ若者を中心とした国民の蜂起が起き、それを弾圧する政府の鎮圧隊と激しく衝突しました。あれから35年。中国は経済成長を遂げ、世界第二位の大国となった一方、プレゼンスと影響力をより強める強硬な外交方針を貫きます。一対一路やアフリカなど経済基盤の弱い国に金銭的しがらみで追い込み、スリランカのように国家が立ち行かなくなったケースもあります。
習近平氏は中国共産主義の原理主義者だと私は思っています。権威主義をとことん突き詰め、情報統制を行い、一国二制度だった香港も形式的には二制度が残っているかもしれませんが、もはや民主的な国家運営は全くないといってよいでしょう。そして今は台湾に圧力をかけ続けます。
不思議なのはこのような権威主義に対して世界は割となびいているのです。スウェーデンの独立調査機関V-Dem研究所が発表した「民主主義レポート2024年版」は集計対象179か国/地域でみると民主主義国家91,権威主義国家88でほぼ拮抗。ただし、グレーゾーン国家を除外すると78対83か国で権威主義国家が多くなります。また、人口でみると民主主義陣営は全体のわずか29%にとどまるのです。
そして何らかの形での権威主義国家は増え続けている、これが実態です。
なぜ、権威主義が跋扈するのか、個人的には2つの大きな理由があると思います。1つは国内経済が十分にテイクオフしておらず、国民の高い貧困/格差レベルないし、将来不安を抱える層が多い国に権威主義を支持しやすい方向性があること、もう1つはアメリカの衰退です。
人は苦しくなると何かにすがりたくなる、これが性であります。宗教はその典型ですが、現代生活において様々な不安がある場合、強い国家権力に巻かれるほうが楽だと考える民が多いのは否定できないと思います。例えば日本で民主党政権の際に震災もあり、非常に大きな混乱に陥ったのち、安倍氏が首相として力を発揮したのは強いリーダーシップを国民が渇望した点を否定できないでしょう。
これを世界レベルでみると経済的基盤のみならず社会制度や国民教育が十分に行き届かない中でスマホやコンピューター技術など先端の技術や情報だけが先行して国家に浸透するとマインドギャップが生じます。初めは良いのですが、そのうちそのギャップが埋められず、更に不安感が増長される、これが私の思う権威主義が普及しやすい理由です。
また民主主義の象徴であるアメリカの社会制度と思想の衰退ぶりが勢いを増す権威主義との好対比となっているとみています。アメリカでは1%対99%という格差問題や「成功者は修士課程を取るのが当たり前」という激しい競争社会を生み出します。エリートたちはオピオイドを服用し、自分をごまかしてまで勝ち抜き競争に挑みます。一方、大学に行けなかった人たちはトランプ氏の出現に自分たちの代弁者のごとく支持が集まります。私はふと思うことがあるのです。トランプ氏は一種の権威主義的思想ではないか、と。
その点では日本やカナダは私が知る限りではアメリカ以上の民主主義国家だと思います。
我々が中国を批判するのは自分たちの自由と充実した社会制度と一定の教育、更には職にありつき、老後もそれなりにケアされる仕組みがある故なのでしょう。「なぜ中国は権威主義に走るのか」といっても理解しにくいことは確かです。中国には私有はなく、年金制度など老後保障も十分ではありません。かといって富裕層のように外国に移住する手段を持たない限り、民は国家と対峙するか、服従し、すがる以外方法はありません。
国家と対峙すればどうなるか、それは天安門事件のみならず、文化大革命の頃から何一つ変わらない弾圧が待っているのであります。コロナの時に中国で「白紙運動」が起きてコロナ封鎖に対する民の大きな声が上がりました。その後どうなったかといえば運動の主導者たちには厳しい弾圧が待っていたのです。
民主主義については様々な書籍や研究文献が出ています。目立つのは今の民主主義は持続可能か、というものです。民主主義を維持する国家は政治的理由により民の言い分を聞き入れる傾向が強くなります。しかし聞き入れるほど国家はより泥沼にはまっていくのもまた事実です。メキシコで女性大統領が圧倒的支持で誕生しましたが、為替も株も大暴落しました。理由は中道左派政権がバラマキを継続するだろうという失望感です。
何も変わらぬ中国をかえるには民主主義陣営がより魅力的な社会を創出するしかありません。その中でアメリカが行き詰まるなら日本が民主主義、権威主義に続く第三の主義で民の幸福と生きがいと成長を提示する国家として手本を示すことはあり得ると思います。日本はかつてジパング(=欧州から見て東方の国)とされました。今こそ、現代社会のジパングとして再び光り輝かせる時なのではないでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年6月5日の記事より転載させていただきました。