世界はウクライナをどうしたいのか?

ウクライナ関係のニュースが途切れることはあまりありませんが、多くの報道は戦争状況そのものであったり、それぞれの当事国の発表、更には関係諸外国の外交的施政の話であったりします。ありそうでないのが「ウクライナを支援します」と言いながら武器の支援以外は明白な支援の目的と具体的な再建計画を提示したものがまだ少ない点です。

その中で6月16-17日にスイスでウクライナの和平サミットが開催される予定で80か国以上が参加表明していますが、ロシア、中国は参加しません。バイデン大統領も参加しません。よってこのような和平サミット開催までこぎつけたのは立派ですが、ゼレンスキー氏がどう参加者に問いかけるのか注目です。引き続き一歩も引かないというスタンスを貫くならそれは和平サミットではなく、決起集会になってしまうのです。

バイデン米大統領(左)とウクライナのゼレンスキー大統領(2023年9月22日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

先月のイタリアのG7財務相会談ではウクライナ支援の一環で凍結済みのロシアが持つ海外資産の有効活用について大枠合意されたと報じらています。記事を読む限り世界で凍結済みのロシア資産は約47兆円規模あり、その資金運用分をウクライナ支援に回すという風に読めます。例えば単純にそこから生み出される利息だけも年間2兆円にもなりますし、アメリカ案だとそれにレバレッジをかければ何倍にもする錬金術が可能になるのかもしれません。

この資産活用はアイディアとしては基金方式でロシア資産47兆円の原資には手をつけず、そこから生まれる期間利益=利息/収益をウクライナに回すというコンサバな発想が原点にみえます。仮に基金になる原資に手を付けると非常に難しい問題に直面するのが目に見えており、そこは避けたというのが私の理解です。

一方、プーチン大統領は「目には目を、歯には歯を」を既に発表しており、ロシアの在外資産を各国が没収するならばロシアが確保している各国の資産を没収するとしています。もちろん、規模が違うし、民間企業はロシア資産を既に損失計上している場合も多く、この点ではロシアに分はないのですが、個別で見ればそう簡単ではないのかもしれません。例えば日本はサハリンのガスプロジェクトなど宙ぶらりんのものもあるし、漁業権も水産業者にとっては死活問題になるかもしれません。

では本題の「世界はウクライナをどうしたいのか?」であります。私にはこのピクチャーが全然見えてこないのです。ウクライナを支援するという美辞麗句とは別に戦争をどう終結させ、誰がどうやってウクライナを再建させるのかについては淡泊な気がするのです。

うがった見方ですが、戦争当事者に対して第三国が支援する場合、それなりの理由があるものです。①同盟としての支援 ②延焼を防ぎたい=自国への被害拡散を止めたい ③国際関係上の義務感 ④ 戦後を見据えた経済的便益の争奪戦に加わること、が主なものではないでしょうか?

①から③はともかく、案外④が本音であることは多くの国が隠すものです。イラクを攻めたブッシュ氏は石油利権を期待していました。ではウクライナはどうなのか、といえば私には穀倉地帯以外思い当たる節がないのです。ではウクライナの人たちは自国をどう見ているのでしょうか?例えば戦争が終わったら世界各地に避難しているウクライナの人たちは戦禍でボロボロになった自国に戻りたいと本当に思っているのか、移住先の生活を手放さないのか、ここは大きな判断になるでしょう。

ウクライナは戦争前から極端な人口減少に悩まされてきた国であり、政治的不安定さも含め、国家としてソ連からの独立後も明白なビジョンを持ち合わせていなかったというのが私の個人的見解です。世界の歴史を見れば不安定な国家は誰が政権を握るか次第で右にも左にもブレるわけですが国際世論は内政不干渉であり、何が起きようとそれを尊重しなくてはいけないのです。

つまり今回、復興のための資金プランは出来たけれど何をどう使っていくのか、その管理はどうするのか、汚職が多い同国にそのままお金を渡したらどうなるかぐらいは当然分かっているはずです。

どういう形にしろ、戦争が終結した段階でウクライナの自律回復は極めて困難ですから一種の信託統治のような形で第三国チームが国家再建を担う案が出てくるのだろうとは思います。ではその間に日本のGHQ統制期間と同じようなことをするのか、今の時代にそれが可能なのかという点も含め、より慎重にプランすべきだと考えています。個人的にはロシアと国境を接しているウクライナに対して西側諸国中心の信託統治が可能だとは思えないのです。

ウクライナの再建は相当困難が予想されますが、その中で現実的解として大農業国に仕立てるのはありなのかもしれません。また農業産品をそのまま輸出するのでは脳がないのでいわゆる第六次産業化を進めるといった経済再建はやりやすいと思います。第六次産業とは1次産品業者である農家が第二次である加工と第三次の流通を行う産業化のことで1x2x3=6次産業という名がついています。

これは一つの案ですが、国家の再建にはその国のファンダメンタルズを考えたうえでもっとも再建しやすいところから手を付け、自助努力できる勢いをつけることが大事です。移民政策をとり、人材を取り込みながら国民総生産の基礎体力をつけていくのがベストだと思います。

このようなウクライナの将来のピクチャー案がほとんど出てこない中でお金の話だけで盛り上がるのはある意味、無責任な国際世論の議論のように感じるのは私だけでしょうか?

とはいえ、早く戦争を止めること、それと合わせ、ゼレンスキー氏の身の置き方を自身が明白にしないと既に大統領の任期が切れているのに大統領をずるずるやり続けるのは国民のベクトルを考えても愚策だと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年6月7日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。