数年前までは身長170センチ、体重130キロと推定されていた。トランプ大統領(当時)と金正恩総書記の首脳会談(2019年2月)の際、当方は金正恩氏の体重は「130キロ」と書いた覚えがある。それが最近はどうやら140キロに増えているというのだ。北朝鮮の最高指導者金正恩総書記は今年40歳になったばかりだ。140キロは完全に肥満だ。自覚して減量に取りくまなければ深刻な健康問題が生じるだろう。そして金正恩氏の健康問題は即、その後継者問題に発展するから、金正恩氏の10キロの体重増しは北朝鮮の国事を左右しかねない重大事ということになる。
ヘビー・スモーカーの金正恩氏、米朝首脳会談の休憩時間にもタバコ一服(CNNの放送中継から)
ちなみに、米国の情報機関が収集した2019年2月段階の金正恩氏の生体情報は、年齢35歳、身長170センチ弱、体重130キロ、お酒が好きでタバコをよく吸う。既婚者、肥満で足首、膝が弱い。日常生活は不規則だ(「金正恩氏の『生体情報』は高額」2019年3月16日参考)。
ところで、ドイツ民間放送ニュース専門局ntvのヴェブサイトは29日、金正恩氏の後継者問題を掲載していた。国際記事はウクライナ情勢がガザ紛争の記事で溢れてきたが、そのウェブサイトに北朝鮮の金正恩氏の話が載っていたのだ。珍しいことだ。
ニュース自体はAP通信の外電をもとにまとめられていた。AP通信のニュースは、韓国の情報機関、国家情報院(国情院)が29日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の娘について「後継者として修行を積んでいる」との分析を国会に報告したが、それをソウル発で配信した内容だ。AP通信の独自の調査情報ではない。
参考までに、独裁者金正恩総書記の体重をどうして外部の人間が知ることが出来るかだ。体重計に乗っている金正恩氏の傍でその体重計の針を覗いていない限り、分からない。それも「130キロ」から「140キロ」に体重が増えた、という話になると猶更だ。「体重140キロ説」はあくまでも推測だ(ロシアのプーチン大統領への歓迎会を開催する金正恩総書記の写真(2024年6月19日)を見る限り、当方の目には生命の危険があるほど健康が悪化しているとは見えない)。
問題は、北朝鮮では首領様の「体重10キロ増説」は即、後継者問題に発展することだ。ntvの記事のポイントも体重問題ではなく、金正恩氏が心臓関連の疾患で亡くなる危険性が高まり、後継者問題が浮上する、という点だ。
憶測し、推測するのはメディアだけではない。国情院も同じだ。北朝鮮のポスト・金正恩をテーマにして早速憶測し、「北朝鮮の金正恩国務委員長の娘、金ジュエ氏が後継者としての教育を受けている」と明らかにした。韓国聯合ニュース(日本語版)によると、「国情院はジュエ氏の活動の約60%が正恩氏に同行する軍事分野の日程であることや、ジュエ氏に対し『嚮導』(きょうどう)という表現が使われていることから、ジュエ氏を後継者にする計画がかなり固まっているとみられると分析した」と報じている。
金ジュエさんへの後継者説は新しいニュースではない。今回はその推測の信頼性を支えているのが「体重140キロ説」だ。韓国聯合ニュースによると、国情院は金正恩氏の健康について、「30代前半から高血圧、糖尿病の症状が出始めたと把握しており、現在の健康状態を改善しない場合、家族歴のある心血管疾患が発症する可能性があり、綿密に追跡中」と説明し、「正恩氏が服用しているものとは別の薬剤を探している動向が確認された。既存の薬だけでは鎮めるのが難しい状況も一部あるのではないかと推定される」と報告している。
金ジュエさんへの後継者問題については、国情院もまだ確認できないでいる。彼女は14歳前後とすれば、金正恩氏の死後、ある一定の期間、金正恩氏の実妹、金与正副部長が摂政の立場でジュエさんを支えるだろうが、ジュエさんが成人した後、金ジュエさんと金与正さんとの関係は厳しくなるのではないか。父親・金正日総書記の死後、権力座に就いた金正恩氏はその後、世話人の立場だった叔父の張成沢(元国防委員会副委員長)との関係が難しくなり、最終的には張成沢は2013年、金正恩氏によって処刑されたことがあった。同じことが金ジュエさんと金与正さんとの間で起きる可能性は完全には排除できない。3代続く金王朝は民主政権ではないから王族圏内での権力闘争は避けられないのだ。
米CNNは2020年4月20日、米情報機関筋の情報として、金正恩氏は4月12日に心臓の手術を受けたが、術後、容態が悪化したというニュースを報じた。北朝鮮情報では最も多くの内部情報網を有する北朝鮮専門ニュースサイト「デイリーNK」も当時、金正恩氏は心血菅の手術を受けたが、今は少し回復して、別荘で療養中という記事を掲載した。両者の情報で共通点は、金正恩氏が心臓関連の手術を受けたという点だった。
あれから4年が経過した。金正恩氏の体重が10キロ増加したことが事実とすれば、金正恩氏の健康状況は危険水域に入っているとみて間違いないだろう。ここ暫くは、「もしトラ」に倣って、もし金正恩氏が倒れたならばという意味を含め、「もしキム」がメディアの世界で囁かれるだろう(「愛煙家の金正恩氏はやはり危ない!」2020年4月22日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。