富裕層は憎いか?:カマラ・ハリス氏と石破茂氏に共通する論外の発想

ハリス副大統領と石破自民党総裁選候補の共通点、それは二人とも富裕者層への課税強化を主張していることです。

石破茂氏とカマラ・ハリス氏 両氏インスタグラムより

まずハリス氏。法人税率を21%⇒28%にするほか、多国籍企業の税率引き上げ、利益が10億ドルを超える企業への「公平な負担」を求めています。それだけではありません。超富裕層に対する資産税として含み益の25%を課税するとか、キャピタルゲイン課税を44.6%にするといった私から見れば無謀の極致のような主張をしています。

理由はハリス氏があくまでも中間層の取り込みを主眼としており、その層や低所得者層へのバラマキをするための財源が必要だからです。ではこんなバラマキをしたらどうなるでしょうか?

アメリカの超富裕層が海外に出る、その公算が高くなってしまいます。特に資産税を取り入れるなら経済がガタガタになるとほぼ断言します。実はカナダでかつて法人向けに資産税があったことがあります。90年代です。Large Corporation Taxと称するもので、不動産など資産額などを算出根拠に課税されていて実は私が担当していた関連会社もこのカテゴリーに入っていたため、「なんで会社の資産額が大きいだけで課税されるのだ!」と親会社からブンブン文句を言われたのをよく覚えています。カナダでは当然ながらひどく不評で確か政権交代で無くなったと記憶しています。

では転じて日本。石破氏がBSテレビで「首相に就任した際は、株式売却益などの金融所得への課税強化について『実行したい』と強調した」と述べています。具体的な言及がなかったようなのでどの程度を意図しているのか不明ですが、現在の税制が金持ち優遇になっているとされる点について修正したいということなのでしょう。もともとは岸田首相が2023年1月にそのような提案をしたことがありましたが頓挫しています。

日本の場合、労働者が所得税を払う場合累進制で最大45%になります。一方、金融所得は労働所得と分離しており、住民税を別にすると15%になっています。富裕層は金融所得が多くなりますので一般所得税と金融所得税がブレンドされる結果、税負担の総額は収入が多くなるほど低くなる傾向があります。(これはアメリカでも同じです。)

労働だけで1億円稼ぐ人はかなり限られると思いますが、所得に応じた税負担のグラフを描くと概ね年収1億円を超えると実質的な税率が下がる(=税のブレンド効果が効き始める)とされ、更に収入が増えると税負担率がどんどん下がるようになっています。(私は「1億円の壁」とされるあの有名なグラフは本当に正しいのかと未だ疑問府です。もっと緩やかで転換点はもっと低い金額ではないかと思います。)極端な話、投資だけで飯を食うなら15%プラス住民税なのです。しかもいくら稼いでも同じ税率です。

石破さんはこれは不平等である、と考えるわけです。創業者やIPOで株式を売却して莫大なる売却益を上げ、富裕層になったケースは確かに多々ありますが、人数的には知れています。石破さんはそこにターゲットを当てているとは思えないのです。石破さんの怖いところは平等主義が強すぎて「一億総中流よ、再び」を目指しているのではないかという気がするのです。ここがハリスさんと重なるところ。ハリスさんは民主党ですが、石破さんは自民党。こうなると自民党も右から左まで「思想のデパート」のようなもので総理候補者が何人出ても構いませんが、この人は本当に自民党の人?という方には要注意マークをつけるべきです。

ところで株式投資に対する課税強化は正しいのでしょうか?カナダでも今年6月からキャピタルゲイン課税が強化されました。私の会計士から「ひろ、利益が出ているものは今売った方がいい」と助言を受けたのですが、会計士には「大丈夫。手持ち全ての銘柄で利益が出ているわけではないので利益を出した場合、損をしている銘柄を売却して相殺するから」と言っています。

株式投資は常に勝てるわけではないのです。勝率は案外低かったりして私が思う目安は6-7割ではないかと思います。つまり常に損との闘いでトータルするとこれだけ勝ち、という話です。そのコンセプトは資本市場にリスクを取りながら参加しているという意味です。国家が資本主義を支持する限りリスク応分の低めの税率適用は当たり前なのです。そうでないと誰もリスクをとる投資活動に参加しなくなるのです。それこそみんなで定期預金で満足するようになったらどうするのでしょうか?

また石破氏はアメリカなど海外に投資が向いていることに「懸念」を示し、海外にマネーが行かないような工夫をしたいという趣旨のことを述べています。こうなるともう理想を追求した「仙人の域」であります。マネーに原則、国境はないのです。そしてもしも海外にマネーが逃避するならば国内が投資にふさわしい魅力的な市場ではないということなのです。そんなことを制限するより国内がより魅力的で光り輝く市場にする、こういう発想ができないと全然だめです。

その点でハリスさんと石破さんは私からすると論外の発想であって、少なくともこのお2人にだけはどうぞ、お引き取りください、と申し上げたいと思います。もしもハリスさんが大統領になるなら私はアメリカ株投資からは全部引き上げます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年9月4日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。