成功しても慢心しない難しさ

黒坂岳央です。

年を取るごとに「尊敬」する相手は移り変わってきた。20代の頃はビジネスで成功した人、30代の頃は基準が上がって「大」成功した人、そして40代になった今は「ある程度の成功をしても慢心せず、ずっと頑張り続ける人」だ。

プチ成功を収めた後、どうすれば慢心せずに頑張り続けることができるか?という非常に難しい問題について取り上げたい。

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30代は慢心元年

20代は多くの人が「いつか自分も」という感じで夢や野心を持っている。だが30代後半ともなると空気が変わってくる。

人によってはまるで定年前の逃げ切り社員のように硬い守りに入って、いかに現状の年収や待遇を維持できるか?というゲームルールで勝負する人も出てくる。そうした人はまだ30代で見た目は若くても、漂う空気は老け込んでおり、リスクの伴う挑戦は何もしたくないという感覚が伝わってくる。

そう考えるのも無理はない。30代後半は「人生の限界値」がおぼろげながらも見えてしまう年齢だ。この年になるともう今後のキャリアの展望も見えてしまう。この段階で課長、課長補佐が届かないならおそらく一生平社員確定だ。日本で課長以上になれる人はたったの3割しかいない。そして学生時代、20代で就活を頑張ったことで実際の実力以上、相場価格以上の年収になっている人にとっては、このまま今の会社をキープしたいという感覚になる。

「自分はこの程度でいい。この居心地の良い場所でいさせてくれ」、このように上を目指すことを諦めた時、慢心が始まる。

プチ成功したビジネスマンは次々と脱落

慢心が生まれるのは年齢だけではない。社会的地位や収入である程度に達すると同じ事が起きる。

自分は複数のYouTuberとコミュニケーションを取る機会に恵まれ、話を聞いたことがある。チャンネル登録者が5万人、10万人を超えるところまで育てた後、急に更新を止めてしまう人は意外にいる。最後の動画を投稿してから数年が経過、一番新しい動画には「もう更新しないのですか?」と視聴者からのコメントが付いていたりする。

視聴者側からするとそれまで精力的に更新をしていたのに急にやめたので、「もしかして病気や家庭の事情など、何かしらの不幸に見舞われたのか?」と思いがちだが、多くの場合「慢心」で説明ができる。つまり、ある程度の規模になったことに満足し、過去の自分を超え続ける活動に疲れて更新を止めてしまったのだ。簡単にいえば飽きてやめてしまうのだ。

また、経営者でも似たような話は聞く。年収は3000万円を下回らない規模で安定、参入障壁が非常に強い業界で強力なライバルもやってこない。会社は自分がいかなくてもまわる仕組みがある。こうなると、もうあくせく頑張りたい欲求を刺激するものがなくなってしまう。結果、次第に会社に足が遠のいてしまうのだ。

年収はこれ以上上げても欲しいものは何も無い。承認欲求もとっくに満たされている。でも実はこれまで頑張って育ててきた事業は一生涯かけてやりたいものではなかったので、「もう十分かな」とある程度の成功で慢心が始まってしまうという話だ。こうした人達は会うたびに「何か面白いことない?」が口ぐせで、強い刺激に飢えているが自分で新たに何かを始める気力は枯渇しているという感じである。

目標がなくても頑張れるのが本物

自分はいろんな仕事をやってきた。今続けている仕事以外にも手を出してみて、まったくうまくいかずに撤退したものもあれば、かなり手応えがあって売上も作れたが、なんとなくこのまま続けたいとは思えなくて結局やめたものもある。

そして現在、やっている仕事はすべて目標はない。売上をこれだけ作りたいとか、数値目標でここまで目指したいとか、人から称賛されたいという欲は無い。ただ楽しいから続けている、そういう仕事だけが手元に残ったのだ。

この経験から言えることがある。それは人間にとっては2種類の仕事があるということ。1つ目は目標を叶えるための手段としての仕事、もう1つが仕事そのものが楽しいケースだ。

目標を叶えるための仕事とは、お金目的の仕事である。お金がもらえるからやる気の有無に関係なく仕事をする。でもお金がもらえないならやりたくない。そういう類の仕事である。

だがもう1つの仕事、つまり仕事そのものが楽しくて続けているケースも存在する。自分自身もそうだ。もちろん、金銭の授受がなくなると経費だけが出ていくことになり、事業が継続できなくなるのでお金は必要だが、「報酬」が第一義的ではないという感覚だ。

自分以外にそういう人は世の中にいる。たとえば一生かけても使い切れないほどお金を持っている経営者達である。彼らは明らかにお金目当てではない。事業を育成するプロセスが楽しかったり、世の中を変えるイノベーションに挑戦する自己実現欲求を叶える手段として仕事をしている。そうした人たちはお金や承認欲求のためにやっていないので、たとえ成功しても絶対に慢心しない。すでに大きな成功を収めても尚、さらに上を目指して頑張り続けるのだ。

厳しい局面、人生がかかった局面で歯を食いしばって頑張ることはそこまで難しくはない。誰しも仕事の鉄火場で自主的に仕事を頑張って危機を乗り越えた経験が一度や二度あるはずだ。しかし、すでにかなり満たされている状態なのに、慢心せずずっと上を目指して頑張り続けることは非常に難しい。だからこそ、そうした人を自分は尊敬する。自分自身、日々仕事をする中でこの課題を考え続けている。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。