リアルの効果:強まるリモートワークへの逆風

カナダ東部出身の方と話をしていたらトロントあたりにお住いの方がカナダ東部の小さな都市周辺に住宅を購入して大変な値上がりをしているといいます。都会の人がなぜそんなところに不動産を購入するのか伺うと、金利高と不動産高とリモートワークの組み合わせによる究極の選択とのことです。

企業は一時期、完全リモート業務は「2020年代の新しい仕事のカタチ」と言わんばかりでしたが、トーンが少しずつ変わり、現状、週の一部だけといった限定リモート型勤務が主流になりつつあり、北米でもリモートワークの考え方は変わってきています。アマゾンも週5日出社義務にすると発表したようですが、今後もリモートワークの余地はある程度限定された状態になるのでしょう。するとトロントから逆立ちしても通えないカナダ東部に不動産を買ってしまった方々は今後、どのように就労し続けていくのか興味があるところです。

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日本でも同様の動きはありました。九十九里浜でサーフィンしながら業務とか軽井沢で暑さも逃れ、ゆったり勤務を自慢した人、更には会社の交通費支給も定期券購入代支給ではなく実費精算で働き方改革を謳っていた企業、「俺は二度と出勤をすることはないだろう」と豪語していた知り合いなどの弁を聞いてみたいものです。

あるNPOで進めているイベントの準備作業は全部オンラインでやるといわれ、オンライン会議とLINEを駆使した「いま風」のやり方でしたがここに来て主催者が焦り気味で「リアルミーティング」に切り替えようとしています。理由は準備のコアグループの熱量がばらけ、チーム員から振り落とされた人が数多く出て、まとまり感もなく、このままでは一体どうなっちゃうのだろうという危機感が生まれたからでしょう。

コミットメントのやり方にもいろいろあります。かつては血判状なるものがありました。血でその契をかわすということでしょう。欧米では自筆の署名に意味があったのですが、最近は電子署名が発達し、ウェブ上でサインをすることも増えています。ただ気がついたのです。あぁ、これ、書類を全然読まずにサインしているなぁと。正直申し上げるとサインはやっぱり自筆こそが理解をし、確認し、コミットメントしているという気にさせるのです。(お前は古いといわれるかもしれませんがね。)

仕事の仕方もオンラインではなく、直接顔を合わせながら作業を進めるほうが明らかに効率的であると感じる人々が増えてきたのは事実です。多分、これ、比較論だと思うのです。コロナ前のリアルが当たり前からコロナ中のリモートが当たり前と変遷し、それが落ち着き、1-2年経った今、双方の長短が見えてきたということかと思います。

山手線の車内広告である金融機関が「対面対応」を売りにしているのを見かけました。高齢者が金融機関の各種サービスを受けるのにネット対応といっても物理的にどうやっていいかわからない以上にウェブが今一つわからないし、不安だし、サービスとしての満足度が高くないことがあるのでしょう。

我々の世代から下はネットリテラシーが高いのですが、今の80代から上の方に同じ感性を要求することが間違いだと思うのです。そして金融機関にしてみれば高齢者ほど高額の預貯金があるお得意様なのに自己都合の効率化を強いてきたとも言えます。

ある小説に「リアル飲み会がオンライン飲み会になった、はじめは週に1回だったがそのうち、月に1回、年に数回と減っていき今回は1年ぶりにやることになった…」という記述がありました。オンライン飲み会ほど盛り上がらないものはなく、酒がうまいと思ったことはありません。

京都で会食が終わった後、ホテルのそばにあったバーに一人でフラっと立ち寄りました。店はほぼ全員外国人に占拠されていたのですがカウンターに常連と思しき日本人女性がひとり、私はその隣に座りました。バーテンさんも忙しそうにしていたので手持無沙汰でスマホを見るともなくいじっていたらその女性の方が声をかけてくれて小一時間ほど話をさせて頂きました。正直、酒がうまかったと感じました。やはり直接人と会話するのが何より面白いのです。スマホじゃ酒のお供にならないのです。

SNSは便利だけどそれに頼りすぎるとやっぱり冷たい感じになるので時として電話してリアルの会話をすることも大事でしょう。年賀状は人と人を繋げる挨拶とされますが、印刷された賀状だけで手書きの一言もなければそのままゴミ箱行きです。同様に北米でよく使うグリーティングカードも同様。主文が印刷され、あとは署名するだけだと味もそっけもなく、二度と見ることはありません。

人間はロボットではない、とするなら人間らしいコミュニケーションをもっとすべきだとここに来てより強く感じる日々です。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年9月22日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。