ドイツでも100歳以上の国民が増加

ドイツ高級週刊紙「ツァイト」電子版では毎土曜日には「グッドニュース」だけが配信される。週末をグッドニュースでエンジョイしてほしい、という編集担当者の心遣いだろう。ということは、平日はグッドニュースより圧倒的にバッドニュースが多いことを意味する。ストレスの多い平日を終え、週末ぐらいは楽しいニュースと希望を感じる情報を提供したいという配慮だ。

ウィーン市16区のキルターク(教会祭、秋祭り)風景(2024年09月20日、撮影)

実際、ドイツでは暴風雨、洪水が襲い、イスラム過激派テロ事件も頻繁に生じている。ドイツ国民経済は日本を抜いて世界第3位だが、過去一年間はマイナス成長が続いている。脱原発政策の影響でエネルギーコストは急騰し、輸出大国の屋台骨を支えてきた自動車産業は中国製の電子自動車(EV)の進出で厳しい一方、中国市場で売り上げを伸ばしてきたメルセデス・ベンツ社はここにきて売れ行きが停滞している、というニュースが報じられたばかりだ。

当方はこのコラム欄で「毎日が『13日金曜日』だ」(2024年9月15日)という記事を書いた。9月13日は「13日金曜日」だったが、大多数の現地メディアは「金曜日13日」を話題にしなかった。古いテーマであり、迷信に過ぎないからだろうか、と考えていた時、知人のポーランド人は「もはや『13日金曜日』だけが不吉な日ではなくなったからだよ。考えてみろよ。ウィーンでもイスラム過激派事件が起きたばかりだ。ウィーンで開催予定だったアメリカのポップスター、テイラー・スウィフトのコンサートはキャンセルされた。ドイツでは橋は崩れ、至る所が洪水や大雨だ。少なくとも、欧州では最近、毎日が『13日金曜日』となったのだ。そんな時、誰がわざわざ『今日は13日金曜日だぞ』と叫ぶだろうか」と言うのだ。知人の説明は非常に説得力があった。

ところで、当方も「ツァイト」電子版から週末に配信されてくるグッドニュースを楽しみにしている一人だ。今週のグッドニュースのトップは「ドイツにおける100歳以上の人々の数が増加」というニュースだ。「ツァイトオンライン」によると、過去10年間で、ドイツで100歳以上の人々の数は増加した。連邦統計局によると、2022年にはドイツで100歳以上の市民が1万6800人以上いた。2011年には1万3400人だった。そのうち男性はわずか15%に過ぎないという。

また、統計によると、100歳以上の人々の約半数が自宅や家に住んでおり、約7000人は老人ホームや介護施設などの共同施設に住んでいる。総人口に対して、ハンブルク、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン、ザクセンでは最も多くの100歳以上の人々が暮らしている。高齢者が最も多い都市はヴュルツブルクで、1万人当たりほぼ5人が100歳以上だ。そして高齢な人々が増加している理由は、生活環境の改善、医療の進歩、そして豊かさの増加だという。

ドイツの平均寿命は再び上昇してきた。連邦統計局によると、2023年には男性も女性も前年より平均約0.4歳長生きしている。それ以前は、コロナパンデミックの影響で2020年から2022年にかけて2019年と比較して平均寿命が0.6年短くなっていた。昨年のドイツの平均寿命は、女性で83.3歳、男性で78.6歳だ。

ただし、ドイツでは、社会的に貧困層の人々は、富裕層の人々よりも早く亡くなる傾向が見られる。ロベルト・コッホ研究所が専門誌「The Lancet Public Health」に発表した研究によると、この不平等は過去数十年間で拡大してきたという。平均寿命と貧富の格差問題だ。どの国でも見られるが、欧州の経済大国ドイツでもそれが表面化している。

参考までに、韓国統計庁の「2015年北朝鮮主要統計指標」によると、韓国の平均寿命は男性が78.2歳、女性が85.0歳、北朝鮮は男性が66.0歳、女性が72.7歳で、南北の差は男性が12.2歳、女性が12.3歳だった。データは少し古いが、南北間の寿命の格差は深刻だ(「北の金王朝は国民の寿命を奪った」2015年12月22日参考)。

ドイツ国民の多くは、1980年代、90年代より長生きし、豊かに生活できるようになったが、未来に不安を感じる人が増えてきたといわれている。80年代、90年代のドイツ人は現代ほど豊かではなかったが、未来に対してまだ希望的だったというのだ。その一方、高齢者の増加、平均寿命の上昇で、社会は急速に高齢化してきている。

「ツァイトオンライン」の編集担当者には申し訳ないが、グッドニュースを読みながら、当方は未来に対して少々悲観的になった。100%ピュアなグッドニュースは元々ないのかもしれない。とすれば、100%バッドニュースもないはずだ。ひょっとしたら、悲観的なニュースにも私たちを鼓舞、啓蒙する内容が潜んでいるかもしれない。

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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年9月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。