持つ者、持たぬ者:住宅も自動車もモノが高くて買えない悲鳴

私がこのブログの連載を始めたのが2007年ですが、比較的初期である2011年に「アセットライトがキーになる」といういうタイトルのブログを書かせていただきました。あの頃、アセットライトという言葉はまだ、ほとんど知られていない時代でそんなことを一生懸命いう人は少なかった時代です。

あれから13年経ってアセットライトという言葉は経営の中ではごく普通に使われるようになり定着したと思います。ではなぜあの頃、お前はアセットライトという言葉を取り上げたのか、といえば私の会社の方針に原点があります。2004年に独立後、継続事業だった不動産開発事業が完了したのが2006年。その頃、次に何をやるか考えていた頃、カナダからも日本からも世の中の悲鳴が聞こえたのです。住宅も自動車を含め、モノが高くて買えない、と。

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そこでひらめいたのです。そうか、持てない人が無理に持たなくてもよい仕組みを作ろうと考えたのです。

それまで資産の所有の代替にはリースという発想がありました。航空機や車からコピー機までリースの発想は80年代に大きく花咲きました。もちろん今でもリースは健在です。ですが、この仕組みはどちらかというと法人向けで、当時はリースは費用処理で資産化による減価償却もいらないとされ、経理部門の強い味方ともいわれました。

一方、個人向けにはレンタルが花咲いたとも言えます。自動車からビデオやCDまであらゆるものをレンタルの対象としたビジネスが生まれたと思います。

この共通点は法人も個人も持つより借りるという発想転換でした。もちろん、80年代あたりは所有にこだわる人が主流で自動車などは中古は絶対嫌だという人は結構いらっしゃったものです。ところがバブル崩壊後、経済的事情もあり、持つより借りることに抵抗がなくなったのは確かでしょう。結婚式のウエディングドレスを買う人はもうほとんどいません。(カナダでは高校卒業のGrad Partyで着るドレスだけは新調するという人がまだ多いようですがこれも変わってくるのでしょう。)

私は貸す側のビジネスとして商業施設、事務所、駐車場、レンタカー(売却済み)、マリーナ(船を泊めるところ)から始まり、日本ではシェアハウスや店舗貸しに外国人向けサービスアパートメントや一般賃貸物件。更には戸建て22年リースもやっています。22年後に建物部分だけ廉価で買い取れるオプション付きのリースです。減価償却が22年なのでそれに合わせたのです。最近ではシニア向けグループホームを通じてお年寄りの最後の拠り所という観点からサービスを始めました。

私が個人事業としてここまでできているので当然ながら大手企業をはじめたくさんの方が様々なアセットライトを支援する事業をされているかと思います。

ただ、最近の日本を見ているとあまりにも企業や個人の体力がなくて持たぬ癖がつきすぎたように思えるのです。2023年に大阪の老舗ホテル、リーガロイヤルホテルの不動産をカナダの生保系不動産会社に売却し、リーガロイヤルは運営権だけ残した形で展開しています。朝日新聞が当時「根無し草」になるリスクと記事にしていたようです。

同様の報道を最近見つけました。茨城県の常磐ハワイアンセンターでおなじみの常磐興産がフォートレスのTOBを受け入れることになりました。施設の老朽化に対して見合うだけの資金力がないことからの撤退でした。2022年には長崎のハウステンボスが香港企業に売却されました。それ以外にも企業の本社ビルやホテル、オフィスビルなど次々と外資が購入しています。

一時期、中国や韓国が安全保障上問題がある不動産を買い漁ったことが話題になりましたが、北米を中心とした外資は着々と日本の資産を購入しているのです。

何故日本勢が買えなくて、外国勢が買えるのでしょうか?あくまでも私見ですが、北米企業の不動産に対する意識はお金を絶え間なく投入し、資産価値を向上し続けることに長けているのです。日本の場合、大規模リノベーションをするより新築にするという発想が強いですね。ここが違います。先日の「老朽化不動産の話」の際に論じた100年持つ建物はゼネコンの売り文句ですが、日本人には寺社のようなものを別として100年使うコンセプトがないのです。自分の代で終わり、次の代は作り変える、この思想の違いだと思います。

このままでいくと「持つ者、持たぬ者」とは「北米のマネーが持つ者、日本の会社や個人が持たぬ者」になりかねない危惧がないとは言えません。

私は今、自社の事務所の構築物を工場制作しているところです。たまたま平屋の事務所棟にテナント2軒いるのですが、古くなったので建て替えるにあたり、自社の事務所を2階に作っても賃料のリターンがそれなりにあるし、今払っている事務所の賃料まで含めて計算すると経済計算は成り立つのでそのような投資を決めたのです。この物件は海の上に浮かべるので不動産のような価値は生みません。せいぜい25年ぐらいで実質償却です。それでも持った方が得なのです。

経済観念だけで言えば、自動車でも家でも持った方が得であり、アセットライトは経営数字上、都合がよい話なのだと思います。私の会社では業務用のコピー機すら所有を繰り返してきました。コピーの販売会社が「ここまで長く使われるともう何も言えません」というほど使い倒しています。壊れないのですよ、今の機械は。

アセットライトは都合がよい発想ですが、日本の不動産が上向いて10年近くなる今、そろそろ持つ発想も復活させるのもありだと思うし、持つなら長く持たせるメンテナンスの思想を取り込んだらよろしいかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年9月23日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。