国会における虚偽発言の放置に対する国家賠償訴訟の提起

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9月24日、国会における虚偽発言の放置に対して、国家賠償請求訴訟を提起しました。事案の経過と訴訟の趣旨は以下のとおりです。

  • 2019年6月から11月にかけて、森ゆうこ参議院議員(当時)が参議院予算委員会などにおいて、毎日新聞記事に基づき、事実無根の誹謗中傷を行いました。
  • 質疑の根拠とされた毎日新聞記事について、本年1月11日、最高裁決定により名誉毀損が確定しました。同社はデジタル版記事の配信を停止しました。
  • 一方、国会発言自体は免責特権の対象で争うことができませんが、森氏が国会外で行った同趣旨の誹謗中傷については、やはり本年1月11日、最高裁決定により名誉毀損が確定しました。
  • ところが、それにもかかわらず、国会議事録は修正(判決が確定した旨の注記の追加など)されず、そのまま掲載され続けています。
  • この間、国会議事録の修正、さらに今後に向けてのルール整備(免責特権濫用への対処、苦情申立て手続き整備など)を行うよう、国会に対し繰り返し求めてきました。しかし、対応がなされませんでした。
  • 虚偽の国会議事録を放置し、必要なルール整備を怠ってきたことは、憲法で保障された人権の侵害です。不作為の責任を問い、国家賠償訴訟を提起します。

本件訴訟は、健全な民主主義を守るための訴訟です。

国権の最高機関たる国会において、事実に基づかない議論がなされ、しかも、虚偽と確定してもなお、国会議事録に掲載し続けていることは、民主主義の根幹を揺るがします。デマの放置される不健全な言論空間は、外国勢力による偽情報工作などのターゲットにもなりかねません。

賠償金を勝ち取ること自体が目的ではありません。国会において適切な是正措置が講じられ、訴訟の目的が達成されれば、訴訟を取り下げるつもりです。

事案の経過

1. 国会における主な発言
  • 「今、皆様のところに資料をお配りさせていただいておりますけれども、本日の毎日新聞朝刊の記事でございます。特区提案者から指導料と、ワーキンググループ委員の支援会社が二百万円、特区ワーキンググループの原座長代理に対して指導料という形で払ったということで、会食も行っていたという記事であります」(2019年6月11日参議院農林水産委員会)
  • 「(原さんが)国家公務員だったら、あっせん利得収賄で刑罰受けるんですよ」(2019年10月15日参議院予算委員会)
  • 「第三者供賄罪、本人がお金をもらっていなくても密接な関係にあるところがその職務に関してお金をもらっていれば、公務員、第三者供賄罪が成立をいたします」(2019年11月7日参議院農林水産委員会) など
2. 国会に対する請願などの経過
  • 2019年12月2日、参議院議長に「国会議員による不当な人権侵害(森ゆうこ参議院議員の懲罰とさらなる対策の検討)に関する請願書」を提出森議員の懲罰、再発防止策の検討を請願。
  • 2022年2月15日、衆議院予算委員会公聴会における公述:報道を鵜呑みにした国会質疑について、苦情申立てに応じ、国会議事録に注記を加える仕組みの検討などを求める意見を公述。
  • 2024年2月27日、参議院予算委員長に嘆願書を提出:最高裁決定による名誉毀損の確定を踏まえ、1)国会議事録の修正、2)免責特権の濫用への対処などの検討を嘆願。
  • 2024年6月4日、参議院議長に「国会議事録の修正などに関する請願書」を提出:最高裁決定による名誉毀損の確定を踏まえ、1)国会議事録の修正、2)免責特権の濫用への対処などの検討を請願。

【参考】

2024年6月「国会議事録の修正などに関する請願書」(抜粋)

下記事項につき早急にご対応いただくよう請願いたします。

1. 国会議事録の修正など

森前議員の上記の発言は、現在も国会議事録に掲載されています。上記のとおり、根拠とした記事は違法と確定し、記事の配信が停止されています。さらに、森前議員自身も、ウェブサイト上でのパネル資料掲載を停止しています。それにもかかわらず、国会議事録では、当該記事を根拠とした誹謗中傷発言が掲載され続けている状況です。これは、私の名誉を不当かつ半永久的に傷つけるのみならず、国会における議論に対する信頼を損ないかねないものです。

参議院において早急に、議事録の該当部分につき修正ないし上記判決が確定した旨の注記を追加すべく、必要な措置を講じていただくようお願いします。

2. 免責特権の濫用への対処などに関する検討

国会の院内における名誉毀損やプライバシー侵害は、憲法上の免責特権があるため、被害者は司法の場で争うことができません。私が森前議員に提起した訴訟も、国会外での名誉毀損とプライバシー侵害に限ったものであり、国会内における名誉毀損については損害を回復できませんでした。

国会内での人権侵害が繰り返されないため、免責特権の濫用への対処のあり方、また、万一人権侵害がなされた場合の苦情申立て手続きの整備などについて、国会において早急にご議論いただくようお願いします。