この投稿が180万インプレッションを超えて変なリプライがたくさん来たので、まとめて答えておく。
いつもの薬は薬剤師が処方すればいい
最初の投稿に書いたように、医師の所得が高い原因は「希少性」や能力ではなく、医師免許による独占レントである。免許をなくして参入制限をなくせば、料金は競争的な水準まで下がり、医師の所得も下がるだろう。
町医者の診療のほとんどは、決まった薬を毎月出す「do処方」であり、これは薬剤師や看護師でもできる。その認定は免許である必要はなく、資格認定で十分だ。むずかしい医療は病院でみてもらう紹介状を書けばいい。
こういう制度改革はどうだろうか:医師の国家試験に「1種」と「2種」を設け、1種は現在の医師免許で保険適用だが、2種はもっと簡単な資格試験で自由診療とする。たとえば風邪薬をもらうには初診料と処方料で合計3590円だが、3割負担だと1077円。これに対して2種の医師が1000円以下の料金を出せば競争できる。
こういう話をすると「薬剤師は検査できない」とか「むずかしい病気はどうするんだ」とかいう話が出てくるが、むずかしい病気は1種の医師にみてもらえばいい。2種の医師には「私は2種医師です」という表示を義務づけ、医療行為にも制限をもうける。外科や高度医療は禁止し、保険は適用しない。
現行法の延長でできるのは、薬剤師に処方権を与えることだ。Do処方を医師がやる必要はなく、患者にも負担が大きい。同じ薬なら、薬剤師が処方すればいいのだ。
職業免許は資格認定でいい
職業免許と資格認定を区別すべきだというのは、ミルトン・フリードマンが1960年代に主張したものだ。免許は無資格の業者の参入を禁止する制度だが、ちゃんとした医師かどうかを知るために参入を禁止する必要はない。
同じように、弁護士や税理士にも免許は必要ない。自分で本人訴訟ができ、自分で税務申告ができるのに、その代理人に免許が必要だというのは筋が通らない。資格試験で無免許の「ディスカウント弁護士」も認めればいいのだ。
ただし医師免許については昔から議論がある。医師を資格試験にすると、無資格の「ディスカウント医師」がたくさん参入し、隠れて手を抜くモラルハザードが起こる心配がある。これを防ぐには、免許による独占レントを与え、医療過誤が見つかったら免許を失うようにすればいい。
つまり医師免許は能力のシグナルであると同時に、供給制限のためのギルドであり、免許によって保証される独占レントが、モラルハザードを防ぐ役割を果たしているのだ。
このような医師免許のメリットが、社会的コストに見合うのかどうかは議論の余地がある。特にアメリカでは医療保険が普及していないため、貧しい無保険者が十分な医療を受けられない問題が深刻化し、所得と寿命に高い相関がある。
こういう場合は医師に自由参入を認め、医療費を下げたほうが社会全体として健康が高まるだろう。日本の場合は国民皆保険で所得と寿命にまったく相関がないが、膨張する保険医療費を下げるメリットはあるだろう。