経営コンサルは「中小企業診断士」を取るべきか?(横須賀 輝尚)

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大企業に勤めていても副業が推奨される今、起業に興味を持つ人は増えています。そんな中、常に注目されているのが資格の取得。すでに資格を持っている人はもちろん、資格を取って独立したい人や資格に興味がある人に必読のQ&Aを、経営コンサルタントで士業(特定行政書士)でもある横須賀輝尚氏の著書『資格起業バイブル』から、再構成してお届けします。

独占業務の有無は単なる法律のルール

Q:独占業務のある資格は有利といわれましたが、独占業務のない資格は無意味でしょうか?

中小企業診断士を目指しています。診断士の話になると「独占業務がないから取っても意味がない」といわれますが、独占業務がない資格は取っても意味がないのでしょうか?診断士受験を考え直そうかとも思います。

資格取得の前に、ひとつの判断基準となるのがこの「独占業務の有無」です。

独占業務とは、その資格を持っていないと、法的に行うことができない仕事のことをいいます。たとえば弁護士の裁判業務、税理士の税務申告業務などです。一般的には独占業務のある資格のほうが有利といわれているようです。

この「独占業務のある資格を選択すべきか否か」という議論の際、必ずといってよいほど槍玉に挙がるのが「中小企業診断士」という資格です。この資格は、経営コンサルティングの専門家となるための資格なのですが、国家資格であるにも関わらず独占業務がない数少ない資格のうちのひとつです。

なぜ議論の対象にされるかといえば、いうまでもなく独占業務のない資格なので、別の言い方をすればこの資格がなくとも経営コンサルタントになることができます。そのため、わざわざお金と時間をかけて診断士の資格を取る必要があるのか、という疑問が生じてしまうからです。

最近の論調は、「診断士の資格の有無にかかわらず、実力が重要」というものがほとんどです。この意見については、私も反論するところはなく、実際に経営コンサルタントとして成功されている方のなかには、診断士の資格を持ってない人も多数存在します。そのため、資格があろうがなかろうが、経営コンサルタントとしての力量、知識があれば成功できるというのが結論になります。

名刺交換の「1秒」に最大のメリットあり

しかし、そうなると診断士を取るメリットが見あたらなくなってしまいます。では、診断士の資格は本当に意味がないのでしょうか。せっかくなので、診断士の資格のメリットにフォーカスしてみようと思います。

診断士の資格を持っていれば、「経営に関して、一定の知識を持っている」という証明が可能です。すなわち、名刺に「中小企業診断士」と書いておけば、「どこまですごいのかは不明だが、一定の知識は間違いなくあるのだろう」と思ってもらえます。この間わずか1秒ですが、これは最大のメリットです。

資格のない経営コンサルタントは、この1秒を手にすることはできません。

これまでの経営経験や、コンサルティングの実績、そして講演活動がどの程度あるのか、クライアントがどれだけいるのか、そしてどんな成果を出しているのか、そういったことを伝えて始めて「力量がある」と認められます。

こういった名称だけで信頼を得るのは、そもそも資格そのもののメリットですが、自分の実績や能力などを伝えるのが得意でないという方は、診断士の資格を持っているだけで、それを証明する時間を省くことができるのです。

極論をいえば、資格を持たずに独立開業している人のほうが多い

やはり資格で有利なのは入り口部分で、初めて人に会ったときや誰かの紹介でお客様候補に会ったとき、早い段階で知識的な信頼を得ることはできます。しかし、資格があることで仕事が取れるかどうかとはやはり別問題です。経営コンサルティングの仕事を取るには、資格以上に指導実績、コンサルタント自身の経営経験、人格などが問われます。

そう考えれば、単に資格を持っているだけでは、商談序盤は比較的早いスタートが切れるものの、後半戦は失速してしまう可能性が極めて高いといえます。ですから、万全を期すなら中小企業診断士の資格を持ち実績を積むことが、経営コンサルタントとしては堅実に進める道だといえます。

現在、出版や講演活動をしている有名な経営コンサルタントも、診断士の所持率はまさしく「ちらほら」といった感じで、資格を持っていることをあえていわないコンサルタントもいます。

極論をいえば、成功している経営者で資格を持っていない人のほうが多数です。ですから、資格がないから成功できないということは考えにくく、結局はその「証明の1秒」を踏まえて資格を取得するかどうか判断すべきです。

なお、変則的な使い方ですが、診断士を有利に見せることができる職種があります。それは、経営者向けに、風変わりなコンサルティングをする場合やスピリチュアル的なサービスや、占い、風水など一般的に非日常的なサービスを提供するタイプのフリーランスの方などは、診断士を持つことによってバランスが保てます。

このような「一見怪しい」サービスでも、診断士の資格を持っていることによって、合理的な経営診断も合わせ持つ印象を与えることができるのです。元大道芸人、お笑い芸人などの変わった経歴を持つ方も、診断士を持つことによってそれぞれのよさを際だたせることができます。

「メリットだけの選択」はありえない

ところで、最後に「選択」についてお伝えしておきたいことがあります。

それは、ビジネスをする上での選択や決断は時に「メリットだけの選択」ではないということです。今回取り上げた診断士も、メリットとデメリットを同時に持つ資格です。

それを踏まえた上で、自分自身の目標と照らし合わせ、あなたが選んだ選択を清濁併せ呑むことが、先に進むことにつながります。

私自身も行政書士を持っていることで独占業務ができたり、法律面に詳しいことを簡単に証明できたりというメリットを享受してきた一方で、「行政書士に経営がわかるのか? インターネット営業なんてわかるのか?」「性格的に固いのでは?」のようなイメージ上のデメリットも被ってきました。しかし、私は行政書士で成功したいという目標の下、メリットを生かしてデメリットを解消する方法を考えました。

ぜひあなたも診断士の資格を目指すのであれば、「独占業務がない」ということで思考停止にならず、あなたらしいやり方で資格取得とコンサルタント人生を考え抜いてみてください。

横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年8月29日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。